2010年05月24日

東の端を視察へ(旅行後)

■2010.05 東京国際・新千歳・札幌丘珠・釧路・帯広・中標津(旅行後)


路線撤退ではない空港撤退

今回の旅行では、まもなく廃止になるANA丘珠便に搭乗しました。
ここ数年、不景気による利用者減少が続き、路線の廃止が相次いでいる地方路線。「今回もあおりを受けて廃止かあ!?」と思いきや、搭乗した路線は性格が少し異なる路線廃止になっています。
今回はその背景を探ってみました。


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実は付け替え
今回搭乗したANA丘珠・釧路線をはじめとするANAの丘珠路線は6月末で廃止されることが決まっている。だが、この路線、実は7月からは新千歳発着便として付け替えられることになっている。つまり、廃止ではなく変更といった感じだ。
変更前後を比較してみると以下の通りになる。(※正式なダイヤはANAサイトなどでご確認ください。)

■稚内路線 ※正式なダイヤはANAサイトなどでご確認ください。
<現行 6月>
 丘珠 09:55→10:45 稚内 11:20→12:10 丘珠 DHC8-Q300
 千歳 15:55→16:45 稚内 17:15→18:05 千歳 B737-500
<変更 7月>
 千歳 09:55→10:50 稚内 11:20→12:20 千歳 DHC8-Q400
 千歳 16:00→16:55 稚内 17:25→18:25 千歳 DHC8-Q400

■女満別路線 ※正式なダイヤはANAサイトなどでご確認ください。
<現行 6月>
 丘珠 10:30→11:20女満別11:50→12:45 丘珠 DHC8-Q300
 丘珠 16:15→17:05女満別17:35→18:30 丘珠 DHC8-Q300
<変更 7月>
 千歳 11:05→11:50女満別12:20→13:20 千歳 DHC8-Q400
 千歳 18:55→19:40女満別20:10→21:10 千歳 DHC8-Q400

■根室中標津路線 ※正式なダイヤはANAサイトなどでご確認ください。
<現行 6月>
 丘珠 08:30→09:20中標津09:50→10:50 丘珠 DHC8-Q300
 丘珠 11:25→12:15中標津12:45→13:45 丘珠 DHC8-Q300
 丘珠 15:35→16:25中標津17:10→18:10 丘珠 DHC8-Q300
<変更 7月>
 千歳 08:10→09:05中標津09:35→10:35 千歳 DHC8-Q400
 千歳 11:25→12:20中標津12:50→13:50 千歳 DHC8-Q400
 千歳 15:50→16:45中標津17:15→18:15 千歳 DHC8-Q400

■たんちょう釧路路線 ※正式なダイヤはANAサイトなどでご確認ください。
<現行 6月>
 丘珠 07:50→08:35 釧路 09:10→10:00 丘珠 DHC8-Q300
 丘珠 11:35→12:20 釧路 12:50→13:40 丘珠 DHC8-Q300*
 丘珠 14:15→15:00 釧路 15:35→16:25 丘珠 DHC8-Q300
<変更 7月>
 千歳 07:50→08:35 釧路 09:05→09:55 千歳 A320
 千歳 14:00→14:45 釧路 15:15→16:05 千歳 DHC8-Q400
 千歳 18:10→18:55 釧路 19:25→20:15 千歳 A320

■函館路線 ※正式なダイヤはANAサイトなどでご確認ください。
<現行 6月>
 丘珠 07:35→08:15 函館 08:45→09:25 丘珠 DHC8-Q300
 丘珠 08:55→09:35 函館 10:20→11:00 丘珠 DHC8-Q300*
 丘珠 12:40→13:20 函館 13:55→14:35 丘珠 DHC8-Q300
 丘珠 13:30→14:10 函館 15:00→15:40 丘珠 DHC8-Q300*
 丘珠 17:00→17:40 函館 18:10→18:50 丘珠 DHC8-Q300
<変更 7月>
 千歳 07:35→08:15 函館 08:45→09:25 千歳 DHC8-Q400
 千歳 11:10→11:50 函館 12:20→13:00 千歳 DHC8-Q400
 千歳 13:25→14:05 函館 14:40→15:20 千歳 DHC8-Q400*
 千歳 15:50→16:30 函館 17:00→17:40 千歳 DHC8-Q400
 千歳 18:45→19:25 函館 19:55→20:35 千歳 DHC8-Q400


*印は一部曜日のみの運航など。

現在、ANA便名の丘珠発着路線は、全便を、小型プロペラ機運航専門の子会社エアーニッポンネットワークが運航している。丘珠から函館便を3〜5往復、釧路便と中標津便を3往復、女満別便を2往復、稚内を1往復それぞれ運航しており、今回はこのすべての路線が同便数のまま新千歳発着に付け替えられる。これによりANAは丘珠から地点撤退する計画なのだ。
このため、丘珠を管理する北海道が猛反発し、同空港の存廃問題に発展する事態に。他の路線廃止と並べてマスコミが大きく取り上げたため、全国的に知られるようになったというわけなのだ。
今回の路線付け替えは、空港存廃だけでなく、航空輸送におけるさまざまな課題や考え方を浮き彫りにしたものになった。

今回の付け替えで最も損をするのは言うまでもなく丘珠空港、つまり北海道だ。5路線が廃止(うち2路線はHACが運航中)で着陸料が7割減らしいからそれはきつい事態だろう。だが、丘珠という小さい枠で見れば大変な事態なのだが、便数は減っていないのだから、大枠で見れば、あまり大きな変化ではない。
今回の付け替えには大きく3つのメリットが見える。一つは新千歳での乗り継ぎ利便性の向上。二つ目はダイヤの改善。そして三点目は新千歳集約によるANA側の効率化だ。


乗り継ぎ利便性は大幅up↑
丘珠空港は、札幌市街地の北端にある都心型空港である。だが、滑走路が短いためにジェット機が就航できず、札幌と道内各地を結ぶための空港という役割だけになっている。
一方、新千歳空港は、札幌市中心部からはかなり離れた位置にある。このため札幌と道内各地を結ぶと言う点では丘珠にその地位を譲る形になっているのだが、滑走路等の施設は丘珠に比べて容量がはるかに大きく北海道の玄関口となっている。

だが、実は、この丘珠は近く、新千歳は遠いという表現にはやや語弊がある。
札幌と道内間を移動する人からしてみれば、一見すると、新千歳はアクセスするのが面倒で、丘珠からが便利なように見える。
しかし、札幌・新千歳間は実は快速電車で最速36分でアクセスできる。丘珠までは地下鉄+タクシーでも30分弱はかかるから、アクセス時間で見るとそれほど大きな差を感じなくなってきているのが実状だ(ただし値段は新千歳が1040円に対し、丘珠は地下鉄+徒歩なら240円で、距離も断然新千歳が遠い)。
こうなれば丘珠でも新千歳でも時間的な利便性はあまり変わらずどっちでも良い話になる。

一方で丘珠・新千歳間は乗り継ぎに1時間以上見ていないと間に合わない。日本の各地から北海道各地への直航便はあまりなく、ハブである新千歳に降り立ち乗り継ぐ必要があるのだが、道内便が丘珠発着では、乗り継ぎが面倒な状況になのだ。

札幌住民が感じる丘珠・新千歳の時間的な差は大きくないのに、乗継客は超不便。であれば、札幌・道内各地間の利用者よりも、日本各地・道内各地間を移動する札幌での乗継客を取り込んだ方がより多くの人に便利になって良いということになる。道内便も丘珠発着ではなく新千歳発着に集約して乗り継ぎも便利にしたほうが好都合というわけなのだ。

さらに他の交通機関の動向も見逃せない要因である。
北海道では、高速道路がここ数年で一気に整備が進んでいて、高速バスが急速に発達。鉄道の高速化も相まって、空路から陸路に流れる利用者も出てきている。日本各地から新千歳に飛んでそこから道北や道東にバスで行くツアーもあるぐらいの状況になってきているのだ。道内間輸送を重視して丘珠にこだわっては、このように新千歳から道内各地へ向かう需要をもとりこぼしてしまうことになりかねないというわけ。(かく言う自分もとりこぼされたことがある一人で、朝便の乗り継ぎが間に合わないから羽田→札幌→稚内と飛ぶ計画を断念したことがある。)
客にとってみても、近場の空港がひとつにまとまっていれば、どちらなのか迷うこともなくなって旅程をたてやすくなるというわけだ。


ダイヤはより便利に
今回の付け替えはダイヤの面で大きな効果が期待されている。
丘珠は都心に近い空港ということもあり、騒音なども考慮して運用時間が7時-21時に制限されている。冬になると終了時間はなんと19時となる。これでは極めてダイヤ設定が難しい状況で、需要が旺盛な夜の便が設定しづらいデメリットが生じてしまう。
新千歳なら24時間運用(深夜は総便数の制限あり)で、ダイヤ設定の幅が大きい。需要のある時間を狙って便を設定することも可能で、旅客にとっても航空会社にとってもメリットが大きいのだ。

実際、ANAでは新千歳移転に合わせて最終便の繰り下げを予定。稚内と中標津は大きな変化がないが、女満別は約3時間、釧路は約4時間、函館は約1時間最終便が遅くなり、より遅くまで現地に滞在することが可能になるようになる予定だ。このため、就航先の市町からは移転に賛成という意見が多いそうだ。

また、二つの空港からばらばらに飛んでいた便が集約されることで、便を選びやすくなり、かつ空港までのアクセスが便利になるメリットもある。たとえば稚内便は現在丘珠から午前に1往復、新千歳から午後に1往復飛んでいる。これでは、朝車で丘珠に行ってしまうと、日帰りするとき新千歳から丘珠まで車を取りにいかねばならなくなる。車で行って帰りに取りに行く手間を我慢するか、車社会の北海道で公共交通機関を利用するという難しい選択しかない。だが、新千歳集約で、車を取りに行くという手間が省けるというわけだ。


集約による費用削減
ANAにとってみれば三点目が極めて重要な点なのだろう。
・丘珠空港でかかっていた事務所費用やハンドリング費用、整備費用などの削減できる。
・運航機種を新千歳発着の別の路線と共通化でき、需要に合わせた運航をしやすくなる。
などといったメリットが浮かぶ。
ANAは、現在丘珠発着便で使用しているボンバルディアDHC8-Q300の交換部品がなくなることから早期の引退を示唆している。実際、7月以降は同機種での運航は札幌からは姿を消す予定。7月以降は、各路線ともエアーセントラルによるボンバルディアDHC8-Q400での運航がスタートし、運航子会社の効率運用にも着手する模様なのだ。釧路便ではなんとエアバス320を導入するなど、いきなり別路線との共通化が実施される予定で、一気に効率運用が進む印象だ(エアバス320は新千歳から成田国際、中部国際、仙台の各路線で飛んでおり、ダイヤのつながりから見ると、新千歳→釧路→新千歳と飛んだ後、新千歳→仙台へと飛ぶ模様)。

tour201005p.jpg
ANAは7月に新千歳へ移転するのを契機に札幌からボンバルディアDHC8-Q300を全廃する。全国各地との間を結ぶ路線と機種を共通化し、より効率的な運用が可能になる。

このように、新千歳集約はかなりのメリットが考えられるのだ。

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新千歳への集約は、丘珠周辺住民からするとかなり不便になる話ですが、その他大勢からみるとメリットがかなりある話になっています。
日本各地につくりすぎてしまった空港。この一部を切り、より効率的に集約していくという今回の方法は、大都市近郊の大規模空港とセカンダリー空港との間でうまく活用できそうです。

JALも神戸から撤退して、関空と伊丹に集約するなど同様の動きを見せています。今後は、このような方法による航空便のさらなる効率化が見られそう。
路線廃止はなくても、空港間の競争がまずます注目されてくることになるのかもしれません。

空港ファンとしては、空港からの路線撤退は残念で、今回のような事態はできれば避けてもらいたいもの。ただ、効率運用の柱としてこのようなことを行うことには注目しており、空港の活用と合わせて、注意深く見守っていきたいと考えつつ、今回の旅行記を〆たいと思います。
posted by johokotu at 18:00| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ◆旅行記 | 更新情報をチェックする
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