2012年10月02日

佐渡でトンだ事態(旅行後)

※この旅行記は2013年2月にアップした旅行記です。



■2012.09-10 新潟・佐渡の旅行後
今回訪問した佐渡空港には滑走路延長の取り組みを紹介するパネル展示がありました。この空港をめぐっては、新潟県などが、滑走路延長で機材大型化に対応し、東京国際(羽田)線を開設しようとする取り組みを行っています。
羽田線を開設したいとする空港は全国にあるようですが、羽田の離着陸数は、発着枠という枠組みで厳しく管理されています。今回は、羽田線就航をめざす地方と羽田の発着枠について考えます。



路線ではなく航空会社に配分される枠
まずは羽田発着枠の配分状況から見てみよう。

国交省で話し合われている羽田発着枠配分基準検討小委員会で秋に決定される増枠分の話し合いが進んでいるが、その添付資料に配分数が公表されている。
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/S304_haneda01.html

これによると、日本航空グループに180.5枠、ANAグループに163.5枠、スカイマーク(SKY)に32枠、AIRDO(ADO)に21枠、ソラシド エア(スカイネットアジア航空、SNA)に22枠、スターフライヤー(SFJ)に14枠が配分されているようだ。

枠は路線に配分されているものではなく、航空会社に配分されている。これは、枠のことを考える上でミソになる部分だ。
平成18年にSKYが鹿児島線から撤退し、より客を集めやすい幹線に路線を付け替えた際、羽田線が大幅減便となる鹿児島県が「枠は鹿児島に割り振られたものだ」と猛反発したことがある。だが、枠はあくまでも航空会社に割り振られたのだから、どこに運航しようが航空会社の勝手。結局、鹿児島線は一気に減少した(現在はSNAも就航し、SKY便も再開されている)。
地方空港との路線ネットワークを維持するために枠を設定するならば、枠はまず路線ごとに設定すべきだが、そうはなっていないのだ。どこの航空会社も、より高需要で客が簡単に集まる路線に就航したいはずで、幹線に付け替えるは当然と言えば当然だろう。
ただ、羽田就航路線を見てみると、利用者があまりいなさそうな路線まで運航されていて、皆が高需要路線と言うわけではないようだ。これにはワケがあって、低需要路線を運航する会社が出てくるよう、枠には色々な制約をつけているのだそうだ。

ちなみに、20時30分から翌朝6時までの出発便と23時から翌朝8時30分までの到着便は枠の範囲外とされている。
国内の地方空港は7時頃から21時頃までの運用時間のところが多く、24時間空港はほとんどない。このため、羽田で夜間駐機する場合は22時頃までの到着、6時頃以降の出発にしなければならないし、地方空港で夜間駐機する場合は20時頃までの出発、8時頃以降の到着にしなければならない。範囲外時間帯に運航したくてもなかなか運航できず、範囲外時間帯に発着できる便は限られてくるためだ。
配分数よりも多数の便を運航する航空会社があるが、これらは範囲外時間帯に設定されている便があるからなのだ。

ウハウハな羽田の発着枠
羽田の発着枠は大きな価値があるとされている。成田国際(成田)や関空が集客に苦労しているのと違い、都心に近い羽田は、値段が高くても客が利用するため、集客努力を多少手を抜いてもいい空港になっているからだ。話題になっているLCCの就航空港が成田であることに対し、アクセスが不便だから利用しづらいという声はよく聞く。羽田が再国際化した際の最大の売りは「都心から近い」だった。
福岡線や新千歳線といった幹線と呼ばれる高需要路線はもちろん、地方主要空港への路線であれば、飛行機を飛ばせば勝手に客が乗る状態。成田の路線よりも運賃を高く設定しても羽田の路線に客が集まってしまう。羽田は航空会社にとってはウハウハな空港になっているのだ(発着料が高い等のハードルはあるにはある)。
そんな空港だから、羽田線の就航希望はあとをたたない。利用者数の多い路線を並べれば、羽田発着の路線が上位を独占するのだから、普通に考えれば羽田を拠点にして路線を充実させるのが効率がいい。だが、羽田の発着はすでに限界に達している。そこで、各社の運航を整理するために設定されているのが発着枠なのだ。
発着枠は滑走路増設などにより容量が増えたタイミングで段階的に数が増やされてきたが、各社の希望数よりも少ない。前述のとおり、配分は航空会社ごとの配分のため、少しでも多くの枠を確保してより採算があう路線に使おうと、各社間で枠の争奪戦が生じることになる。

この枠の配分でナンセンスなのは、配分が定期的に見直されてはいるものの、実質的に見直しは機能しておらず、一度入手できた枠は基本的に大きな変化がないかぎり減ることはないところにある。一度枠を取れば、それが既得権益となる。新規参入や増機で羽田に就航したいタイミングがあったとしても、そう簡単には就航できない仕組みになっているのだ。

地方空港救済の切り札
枠を配分する国は、その配分を、航空路ネットワーク維持のカードとして利用している。
その一例が新規参入の促進であり、別の一例が新空港建設にあわせた新空港路線の設定だ。

まず前者から見てみる。
枠の配分は過去の実績を基に評価する方法がとられており、既存社は枠が取りやすく、新参者は枠が取りにくい。そこで、新規参入が可能になった平成9年から、新規航空会社向けの専用枠を設けるなどの工夫をしている。これまでADO、SKY、SNA、SFJの4社がタイミングをあわせて羽田への参入を果たしている。

続いて後者。
新しくできた空港は需要があるか分からないため、航空会社はすんなりとは就航してくれない。そこで、新空港路線にしか使えない枠を設定し、就航を促している。航空会社に配分する枠でありながら、枠に制約つけることで、路線ネットワークをうまく維持しているというわけだ。
新空港以外でもネットワーク維持のため枠の制約は活用されている。枠を取れた会社が自由に路線を設定できると、高需要路線に集中してしまうので、低需要路線から撤退する場合に枠を取り上げる制約を課したり、高需要路線は運航できない枠を作ったり、低需要路線を運航する会社に傾斜配分したりと発着枠に制限をつけている
枠の工夫でなんとか路線を維持できている空港として紋別、山形、石見などが挙げられる。枠は、地方空港を救済するための切り札でもあるわけだ。

※発着枠の制限で路線撤退に歯止めをかけたものとして、いわゆる1便ルールや3便ルールがある。1便ルールは「当該路線を運航している全航空会社の便数の合計で1便未満になる場合に、当該発着枠を回収し、運航を希望する航空会社を募集する」というもの。先に挙げた紋別、山形、石見はいずれもこのルールが適用されていて、運航各社は運休したくてもなかなか踏み出せない。山形はこのルールが有効に活用された好例で、平成15年にANAから日本エアシステムに付け変わった。
一方、3便ルールは、「少便数路線(総便数3便以下の路線)をグループ化し、減便時には他の少便数路線にのみ転用することができる」というルールだ。これらは三沢や南紀白浜、石垣などが該当している。


羽田は日本の首都の空港だし、旅客の行き来が多いのか、地方空港は羽田との間に航空便を飛ばしたがる。羽田から遠い離島なら、とりあえず地元の拠点(例えば、沖縄離島なら那覇、九州離島なら福岡や鹿児島等)と結ばれれば良く、羽田との直航便がなくてもなんとかなる。しかし、四島にある低需要空港は、羽田線が頼みの綱であるところが少なくない
ただ、羽田線と言えども、低需要空港の路線は簡単には採算がとりにくい。当然、航空会社は就航に尻込みする。現在、低需要空港ながら羽田線が確保されているところがあるのは、たまたま新空港開港などで、その空港専用の枠として配分したところが多い。滑走路延長などの大きな変化がない空港は、枠に制約を付ける理由がないため、地元で羽田線就航を希望しながらなかなか枠を確保できない。佐渡はまさにそれにあたっていた。

全国にある就航希望
佐渡
今回訪れた佐渡は、北方四島の択捉島に次ぐ大きさを持つ大きな離島だ。しかし、佐渡空港は、10人乗りの小型機による新潟線が1日4往復しているだけになっている。運航便数が少ないのは、空港の滑走路が890メートルと短く、小型機(しかも10人乗り程度の機材まで)しか離着陸できないため。新潟線は定期的チャーター便として飛んでいるものの、船との競合が激しく、路線維持がなかなかうまくいっていない。新潟線が運休になれば空港に閑古鳥が鳴く事態になる状況なのだ。
そこで、滑走路を延伸して中型機が飛べるようにし、あわせて不安定な新潟線だけでなく、羽田線を開設してしまおうという動きが始まった。平成22年秋の羽田空港D滑走路完成に伴う増枠では、発着枠を確保するために新潟県が音頭をとって滑走路延長をめざしたものの、議会の賛成が得られず、延長が実現しなかった。滑走路が短いままでは小型機しか運航できないので、いまだ羽田の枠は確保できていない。
海外で実績がある航空機メーカーATRが短い滑走路でも離着陸できると売り込みに来ているものの、既存の国内航空会社には運用できる会社がなく、就航への期待は薄い。いまでは滑走路延長と羽田線開設に向けた運動はかなり下火となり、細々と続くだけになってしまった。

実は、佐渡以外にも羽田線の就航に力を入れている空港は全国にいくつかある。

札幌(丘珠)
札幌市北部にある市内空港。札幌市内からは新千歳よりアクセスしやすく、北海道内路線の拠点空港となっている。かつてJALの前身の日本国内航空が羽田線を飛ばしていたが、すでに廃止されている。
滑走路が1500メートルと短く中型機・ジェット機の運航が厳しいこと、冬の滑走路閉鎖が多いこと、ほとんどの航空会社は新千歳をハブ空港として使っていることなどから羽田線を運航する会社はない。

丘珠は、ここ数年でその環境が大きく変化した。
平成22年にANAが新千歳へ全面移転し、就航便が半分以下に減少して大騒ぎになった。残っている北海道エアシステムは経営が厳しく路線撤退も発生するなど問題が山積み。そのせいもあってか、空港活用の機運が少し高まってきている。
滑走路延長の計画は平成9年に地元住民からの反対に遭って一度断念しているが、議論が深まる中で話が再燃。さらに、滑走路長がほぼ同じロンドンシティ空港を参考に既存のままで本州路線の就航を模索している。フジドリームエアラインズ(FDA)が現行滑走路長でも就航できないか検討するなど様々な動きが出てきているのだ。
新千歳-羽田線は日本一の需要があるので、羽田線は飛ばせばそれなりの利用がありそう。滑走路延長が実現すれば、羽田線就航も現実味を帯びそうだ。

花巻
新千歳線や大阪国際(伊丹)線、名古屋(小牧)線が運航しており、運航便数を維持できている空港だ。花巻は、かつて羽田線が運航されていたのだが、東北新幹線開業にあわせて競合できないと判断されたのか運休した過去をもつ。
この空港は、滑走路長が中大型機も飛べる2500メートルで、佐渡や丘珠と異なり施設は整っている。羽田-花巻間の距離は、羽田-伊丹間や羽田-神戸間より長い。距離だけみれば、羽田線も充分採算がとれそうだが、伊丹や神戸と違い、後背地人口が少なく、県庁所在地盛岡までが遠いなどの弱みがある。
花巻では、地元の花巻市を中心に羽田線復活をめざす動きがある。こちらも平成22年秋の増枠で枠を確保できなかったあとは、だいぶ活動が目立たなくなった。
しかし、東日本大震災後の臨時便で、東北地方の空港では最も長く羽田線が運航し、運動が再燃。運休となった当日には、地元紙の岩手日報で「花巻−羽田便が終了 継続求める声相次ぐ」と記事が組まれるなど、復活への声はまだまだあるようだ。

名古屋(小牧)
東京から新幹線で1時間しかかからない名古屋でも東京線を運航したいという声がある。三大都市圏の一角でもあり、両都市間の流動数はかなり多いが、新幹線との競合は厳しい。
名古屋・静岡を拠点とするFDAが名古屋から成田や羽田へ運航を検討と過去に報じられたことはあるものの実現には至っていない。現在の交通体系になってから、スカイマークが中部国際-羽田線を運航したものの、深夜運航だったこともあってかわずか4か月ほどで撤退しており、羽田線が飛んだとしても採算がとれるかはかなり厳しそうだ。

但馬
兵庫県北部にある空港で、伊丹線が1日2往復のみ運航している。開港時から路線誘致に苦労しており、伊丹線就航にあたり、地元自治体が出資して機材を購入し、日本エアコミューターに使用させて路線を確保しためずらしい空港だ。この空港は、飛行機が運休したときに伊丹まで臨時バスを走らせるなど空港利便に対する姿勢は一級品。伊丹線利用者の3分の1が羽田線への乗継客であることもあり、羽田就航に対する誘致活動はかなり積極的だ。
平成22年秋の増枠では、大規模PR活動を展開したものの、滑走路が1200メートルと短く中型機が就航できないことが大きなネックとなり、就航する航空会社はついに現われなかった。
現在は伊丹経由での利用を呼びかけはじめ、羽田線開設から少し距離を置いたようにも思える。

隠岐
島根県の離島空港。島根県では、出雲空港と石見空港の羽田線増便とともに隠岐への羽田線就航を要望している。
隠岐には、出雲線と伊丹線の2路線が各1日1往復飛んでいる。いずれも座席数が少ないプロペラ機での運航だが、伊丹線は夏と冬の繁忙期だけジェット化され、輸送量を増加させている。
羽田線の運航が実現すれば、繁忙期はそれなりの需要がありそうだが、閑散期に路線を維持できるか未知数だ。

広島西
1800メートル滑走路を持つ広島の市内空港。平成5年に新しい広島空港ができるまで広島の玄関空港だった。新空港移転後もコミューター空港として地方路線が就航していたが、平成22年に撤退して以降は定期便路線はない。
減少する利用に耐え切れずに管理する広島県が廃港を示したものの、広島市が納得せず、利用増加の切り札として独自に羽田線就航を模索していた。
だが、平成23年、市側が折れ、今年11月の空港廃港が決定。羽田線は実現しないまま幕切れとなった。

父島
飛行場がない小笠原諸島でも羽田乗り入れを目指す動きがある。水上飛行機・飛行艇を飛ばしたいというものだ。
小笠原諸島へは現在片道25時間の船でしかアクセスができない。超高速船の導入が検討され、造船されたことがあったが、赤字運航になることが確実で就航しなかった。さらに、小笠原では、主要島の父島周辺に飛行場を造る計画があるものの、自然環境面などの理由でいまだ実現していない。そこで出てきている話が水上飛行機・飛行艇の就航だ。
あんまり知られていないのだが、小笠原には、飛行場はない(過去にはあった)のだが、飛行艇用の離着陸施設が設置されていて現役で使われている。本土への急患輸送が必要な際、父島-羽田間に自衛隊の飛行艇が飛んでいるのだ。この飛行艇は、父島では海面を利用し離着陸するが、羽田では普通の飛行機同様に滑走路で離着陸する。羽田線の乗り入れ構想とは、これと同一経路で旅客便を飛ばそうというものだ。
問題は、国内では水上飛行機・飛行艇を運用しているのが自衛隊だけであること。水陸両方のメンテナンスが必要であるなど管理が難しく、国内には一般の所有機はないそうなのだ。当然、国内には旅客を扱える水上飛行機・飛行艇は飛んでおらず、実現には至っていないようだ。

増便希望空港に破れる就航希望空港
羽田は国内空港の約半数と結ばれている。新規就航だけでなく、羽田線を増便したいとする地方空港も多く、羽田への乗り入れ希望は奪い合いになっている。
新規就航を目指していた空港の多くは、平成22年のD滑走路増設時に伴う増枠が最後のチャンスと動いていた。しかし、枠は航空会社に配分されるから、国に陳情しただけでは枠は確保できない。航空会社は、需要があるか分からない小規模空港の便は設定したがらない。すでに航空会社とつながりがある増便希望組とも枠の奪い合いになり、結局、平成22年秋の増枠では新たな就航先は増えなかった。
その後の増枠の議論は国際線を中心に進み、新規就航へのハードルはぐんと上昇。羽田線就航を目指す各地の議論も縮小してきてしまった。

現在配分されている枠の中で、自由に使える枠は新規路線開設枠(1枠)が残っているだけだ。この枠は佐渡や但馬の参入を前提に設定され、実際、両空港とも地元自治体はこの枠を活用した就航を目指した。しかし、地方公共団体と航空会社が組む必要があったこの枠を使って両空港に就航しようとする会社は現れず、活用されなかった。能登が参入した際に朝晩の2往復にこだわったことを見ても、不便な昼1往復だけ飛んでいたところで利用者が少ないことはド素人でも想像がつく。枠が路線に割り振られるなら仕方なく運航する会社も出そうだが、枠は航空会社に割り振られるから、そう簡単には少需要路線を運航する会社は出てこなかった。
新規路線開設枠以外では、大手3社が交互に活用している国内地方路線枠(2枠)を活用する方法もあるにはあるが、新規就航の形で枠を確保するのはかなり難しいようだ。

羽田線就航を目指す空港を見ると、新規就航しやすそうなのは、丘珠、花巻、名古屋位だろうか。丘珠、名古屋は後背地人口はあるし、花巻は羽田との距離がなんとかギリギリ許容範囲。だが、丘珠は施設規模、花巻と名古屋は新幹線競合に問題を抱えていて、就航するにしてもかなりの工夫が必要そうだ。
上記空港は、FDAが関係している空港ばかりだ。花巻や名古屋は中型機以上では成り立ちにくい路線だろうからFDAにはまさに打ってつけに見える。
数年後にせまった北陸新幹線開通でANAとJALは北陸路線を大幅に減便・運休するとみられており、いま枠を確保しておけば、地盤とする中部地方の北陸路線を確保できる可能性も高くなる。羽田への新規就航と合わせれば話題性も大きく、なんとか実現してほしいところだ。



こうして見てみると、今後、羽田に新規就航する路線はほとんどないようにも見えます。羽田の国内線分の増枠は今年秋の配分が最後と言われています。来年3月で新空港の整備もひとまず終了となり、今後は全国の空港を活用していく議論がはじまるはず。羽田の増枠が地方空港の活性化につながるような内容になることを願いつつ、今回の旅を〆たいと思います。

posted by johokotu at 18:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ◆旅行記 | 更新情報をチェックする
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