※2019年10月にアップした旅行記です。
■2019.08・09 新潟・庄内の旅行後
今回の空港見学旅では、新潟空港からの帰り道、バスのなかで迷った中国人に遭遇しました。
近年訪日外国人が急増していますが、その玄関口はほとんどが空港です。空港を取り上げる身としては、これは避けては通れない話題。
そこで今回は、訪日外国人が日本を旅する上での公共的な問題点について、軽く取り上げてみます。
■ちゃんと調べてきていた中国人
今回中国人に遭遇したのは、空港入口バス停から乗った、空港は一切関係ない路線バスの中でした。中国人は、大きなキャリーバッグを持っていて、何故かわざわざ空港から歩いてきて、このバスに乗っていました。
本文でも書いた通り、この人は、乗車票も取らずに乗車したあと、動き出したバスの運転手に何やら紙と一万円札を示して中国語で話しかけています。運転手は中国語が分からないので話は通じず、結局何も解決せずに、中国人は交渉を諦めました。
で、自席に戻ってきたあと、地元のジジババしかいない路線バスの車内で唯一の若造である自分に声をかけてきたのです。
運転手に示していた紙には、経路検索結果のようなものが印刷されていました。書かれていたのは、全て中国語。喋ってくるのも全て中国語。流石に中国語は分かりません。
しかし、中国人が指差して話してくるので、示された紙の指差された箇所を少し読み込んでみると、書かれた簡体字は、バス停を示しているようで、辛うじて「新潟日報○○○○○○○」のように読めます。調査のためにバス停に貼ってあった路線経路図をたまたま撮影していたので、記録画像を見てみると、途中に「新潟日報メディアシップ」なるバス停があり、他に近い名前のバス停はなかったので、恐らくそこで降りたいのだろうと推測できました。韓国語とかだったら完全アウトでしたが、簡体字とはいえ漢字なので、なんとなく理解ができました。
そう、この中国人は、運転手に、降りたいバス停までの行き方を尋ね、唯一持っている日本円の一万円札で料金支払いをしようとしていたわけです。
示された紙には、新潟日報メディアシップの次に最終目的地も書かれていたので、この中国人は、バス停を降りたあとも迷いそう。
信号停車中に、運転手に、たぶん当該バス停で降りたいことを伝えて 、一万円両替できないことを確認。さっきのバス停でこの中国人が乗車票を取り忘れていることを説明しました。その上で値段を聞いて降りる準備だけしておき、よく分からんこの中国人を連れて一緒に降りることにしました。
一万円札しか持ってないから、バス代を代わりに支払って一緒に下車(後で20元をいただきました)。そこで、最終目的地について、日本語か英語表記のものがないか、あるいはマップがないか片言英語で聞いてみたら、別に持っていた予約票に英語表記があり、ANAクラウンプラザホテル新潟に行きたかったことが分かりました。後で調べたら、中国語だと、ANAの文字すらなく、「皇冠假日酒店 新泻」なので、さっぱり分からなかったわけです(今となっては「新潟」だって分かるか怪しい、、、)。
私自身も地元民じゃないので、この周辺のことはさっぱり分かりません。Googleマップ検索したら、歩いて数分のところにホテルがあることが判明。一緒に歩いてホテルまで連れていったという顛末でした。
渋滞にはまるのが怖くて、かなり早めに新潟空港を出たので、乗る電車まではまだまだ余裕。バス車内で新潟日報メディアシップで降りてから駅まで歩いて10分ほどであることを確認できていたので、たまたま対応ができました。
■案内表示に外国語を表示する重要性
たったこれだけの事例ですが、今回の事例では、インバウンドが急増するなかでの問題点と助かった点がいくつも隠れていました。ざっと上げてみると、以下のようなことでしょうか。
・案内言語の問題
(1)運転手の語学力というか案内力
(2)案内の言語表記
・情報入手の問題
(3)交通検索結果
(4)WiFi接続環境
・支払決済の問題
(5)両替対応
(6)運賃の決済方法
まず、大きく立ちふさがるのは、やはり言語の壁です。これは、日本の母国語がローカル言語の日本語ですから、なかなか解決が難しいところがあります。例えば(1)については流石に運転手に中国語もしゃべれるようになれとは言えないでしょう。そういうことは、C-3POがやれば良いわけです。(最近ではポケトークみたいなのもありますね。)
それでも、バスの運転手なんだから、どこのバス停を通るかは把握しており、類推はできるはず。そのくらいの想像力と対応力はつけてほしいものです。
ただ、これらの解決策が、係員の能力や翻訳機頼みというのも考えもの。運転手が話せないなら、表示でフォローできるよう、表示を工夫することでの改善は図ってほしいところです。
その際、(2)でどこまで対応すれば良いのかという問題に直面してきます。
今回利用した新潟空港の場合、往路で利用したリムジンバスでは日英中韓露の五か国語での案内がなされていました。
しかし、復路で利用したバスは、普段は訪日外国人が乗ることなどほぼない片田舎の路線バスですから、日本語でしか案内がありませんでした。こうなると、訪日外国人は自分では見て確認できず、人に聞くしか方法が無くなってしまいます。
で、話を聞きにいったけど、中国語しか分からんから、運転手と会話もできなかった、というわけです。
この言語問題については、自分は海外の国で、外国人として体験したことがあります。
一例目は、昨年冬季オリンピック観戦で韓国に行った際。
ソウルの街中は韓国語だけの案内ばかりで、非常に困りました。韓国人は英語を喋れるので、普通に街中にも英語があふれていると思い込んでいました。ところが、街中にはよう分からんロト7みたいな文字しかないから、何が書いてあるのか全く把握できないんです。何の表示か想像するのは、本当にロト7のような賭けみたいなものでした。
恐らく今回の中国人も同じ感覚なのでしょう。この人が行きたかった目的地はことごとく漢字ではなく、カタカナでしたから、、、。
二例目は、数年前にスイスに行ったときのこと。
この国は四か国語が公用語になっていて、公共交通機関の案内は、四か国語とさらに英語での案内がなされていました。
公用語の各言語を自分は全く知らないですが、英語ならかじっているので、見るだけでも判断でき、時には英語のできる係員に片言英語で問い合わせをしながら、迷うことなく比較的快適に旅行ができました。
(スイスは日本語で案内を流す鉄道もあります)
今回たまたま関わったのは中国人でした。中国人は漢字が分かると言っても、簡体字や日本語と全く異なる発音を使うので、日本語とは全く別の言語のユーザーと言っても差し支えない人たちです。そんな中で、なぜか中国人は中国語しか使わない人が多いです。恐らく中国語が世界で通じるグローバルな言語だと思っているんでしょうが、、、。せめて世界的に使われている英語表現が分かれば、多少の意志疎通ができますが、中国人の場合、片言英語や英単語すらも通じないことが多いので、毎回意志疎通に苦労します。今回も、例に漏れず、中国語しか分かっていない人でした。
日本語もグローバルな言語ではなく、外国人から見たら意味わからん象形文字でしょう。
バス停にある路線図は日本語だけ、バス内の案内も日本語だけ、バス停を降りても周辺案内すらない。自分が逆の立場だったらさっぱり分からんとなります。韓国で自分が体験した韓国語に対する感覚とほぼ同じというわけです。
こうやって考えると、日本語以外で何かグローバルな言語での案内を出すことは結構重要で、そこで参考になるのがスイスというわけです。
案内を出すなら、何語か。
世界全言語を網羅するなど不可能ですし、表示できる領域は限られるので、言語を絞る必要があります。バスの案内なんてスペース的には日本語+一言語くらいでしょう。
日本の場合、隣国で訪日客が多い中国語や韓国語での表示が最近増えていますが、これらの言語はあくまでローカルな言語。新潟空港で出ていたロシア語も、東京国際空港等では使われておらず、どちらかというとローカル言語でしょう。世界には、フランス語やスペイン語等を使う人も多いですが、新興国等で新規導入して使われることが多いのは英語(シンガポールが一例)。英語だって万能ではありませんが、欧州でも、米国でも、オセアニアでも使われている英語が一番話ができやすいのではないでしょうか。
(こういう時のためにエスペラントがあるんだと思うんですが、英語ほどは普及していませんね。)
日本の場合、大正時代の街の映像を見たって、英語は普通に店の看板とかで使われていました。現代の街中でも店名を横文字にする所は多いですし、そもそもグローバル思考のジャパニーズはカタカナ用語で和製英語を使いたがります。ペンとかパイナポーとかも分かります。となれば、公共交通機関が英語を使うのには、違和感を持つ日本人は少ないはず。
最近は中韓を表示させるのが流行っていますが、公共交通機関には、そこまでしなくても、せめて日英で案内を出せるようにはしてもらいたいものです。日本人のほとんどは、少なくとも中学校で基礎的な英語を習っているはずですから、片言英語(単語羅列くらいでも)は喋れるはず。運転手だって簡単なバスの案内くらい出来ますし、聞く客も英語が母国語でなくても理解できる確率が、中韓を出すよりは大きいのではないでしょうか。
最近の良い事例として、JR東海の、英語での生の案内放送が挙げられるでしょうか。
これに対して聞き苦しいとか、(下手で)恥ずかしいといった否定的な意見もあるんだとか。
しかし、渡航してきた身からしたら、下手でも片言でも、グローバル言語で案内がある効果は図りしれません。人間バカではないですし、そもそも個人旅行で海外旅行をするほどならある程度の知能のある人たちなのだから、下手な英語でも、読み取ったあるいは聞き取ったことを踏み台に、こういうことを言いたいのかな?と類推できます。踏み台が全く無いのとわずかでもあるのとでは、雲泥の差です。
■簡単に情報入手できるのもまた問題
次に見えた問題点は情報の入手という点です。
最近はネットの発達で、事前に、現地の調査を、それぞれの母国語で簡単に、そして、かなり詳細にできるようになっています。
今回の中国人も、路線検索のようなもので、空港からホテルまでの経路を検索していました。ところが、この検索がかなり細かいところまで網羅しすぎていたために、「空港から空港入口バス停まで歩き」「バスで新潟日報メディアシップまで乗り」「その後歩いてホテルへ向かえ」と出てきていました。
そのため、この中国人は、地元のジジババしか乗らないような、日本一色の路線バスに日本到着後すぐ乗ることになってしまったわけです。
カーナビに沿って行ったら、離合もできないようなスゲー小道を誘導されることが時々ありますが、それと同じです。
そこで、うまくフォローできる能力(小道の例で言えば車をうまく切り回せるかなど)が皆に備わっていれば問題ないですが、現実にはそう簡単にはいきません。今回の中国人も、地図は持っておらず(情報統制が厳しい国なので日常的に地図を見る機会が少なく、地図を見ようという発想にならないのかな?)、検索結果も母国語の中国語のみでしか情報を持っていませんでした。結果として、じっくり調べてきたのにワケわからんという非常に残念なことになってしまっていました。
そもそも検索ができなければ、この人は、中国語が通じる空港案内所で行き方を尋ねたかもしれません。
検索が粗ければ、地元の路線バスなどはヒットせず、空港からリムジンバスに乗れ、となります。そうなれば、他に同じ飛行機に乗ってきた中国人もいたでしょうし、案内も中国語が出てくるのでまだマシ。とりあえずリムジンバスで駅前まで行ってから、そこでとりあえず案内所に聞くべという感じになったかもしれません。
非常に細かい所まで検索ができてしまうから起こってしまった事例と言えます。
(3)の交通検索結果の出し方は、意外と気を付けないといけない要素であることに気付けます。
じゃあ、そんな風にきちんと調べてきた人が、現地で言葉が通じずに困ったとき、どうするか。
そこで威力を発揮するのは、それはもう、検索ですよ、検索。人に聞けないときは、自分で調べるしかありません。
しかし、日本ではそれも難しいです。なぜなら、(4)WiFi接続環境があまり良くないから。
今回、この中国人を誘導するために、私自身もスマフォを使ってホテルの位置やバス停の状況を確認しました(新潟のことはほとんど知りませんから、、、)。このとき使ったのはモバイルデータネットワークです。しかし、訪日外国人は、その情報網は使えません。WiFiに繋げるかどうかが重要になるわけです。
この中国人も、ネットに繋がる環境があれば、自分で調べることができたのかもしれません。
ただ、そんな環境はすぐに整備はできないでしょう。
それなら、(2)を充実させて、貼り紙などの情報を強化する方が簡単です。
と言うより、WiFiで調べるような内容は、事前や事後調査用のもので、現地にいるなら、現地の案内で動くのが普通でしょう。ネットで調べなければ分からないような案内しか出ていないのなら、それは明らかに現地の案内不足ということになります。
そう、現地の案内こそ、充実させなければならないということなのかもしれません。
バスに乗る時に不安になることと言えば、自分の乗るバスはどれか、自分の降りるバス停がどこか、そもそもどうやって乗ればいいのかなどがあります。
このうちバスの乗り方は、分かりにくいかもしれませんが、最悪キョロキョロ回りの人の動きを見ていれば分かります。前乗りか後乗りか、降りる合図は紐を引くのかボタンを押すのか運転手に声かけるのか、乗るときに何か取るものがあるのか無いのか、周りを見れば分かることが多いからです。
しかし、降りるバス停の名前や位置は、情報がなければ、全く分かりません。この中国人も、空港入口のバス停で路線図が読めていれば、乗ってからいくつ目のバス停で降りるのかが分かり、人に聞かなくても降りるバス停に気付けたのかもしれません。路線図ではなく、地図形式の掲示があれば、周りの道の形状から降りる場所が分かったかもしれません。
でも、中国語しか分からないこの中国人には、そんな補助となる情報は一切ありませんでした。
実は私自身、海外ではなく、日本の中で、似たような事態に陥ったことがあります。
宮古島に行ったときの旅行記(→http://johokotu.seesaa.net/article/131740856.html)に書いていますが、降りるバス停の案内が車内で出てこず、どこでどう降りてよいのか分からなくなってしまったのです。
その時は、手元に地図があったため、現地の道路配置を注意深く見て、それらを比較しながら乗ったことで、事なきを得ました。
海外に行くとき、日本人の多くは、地球の歩き方を持っていきますよね。それはまさに、不足している情報を補って、(3)の情報強化を図っているということになります。
最低限の情報を、それほど細かくなくていいから、分かりやすいものを入手できること。それが訪日外国人が旅行しやすい土壌になるのかもしれません。
■意外と気付けない決済問題
そして最後に分かった問題点は、決済方法です。これは意外と、現金主義の日本人には分かりにくいことかもしれません。
今回の中国人は、一万円札でバス代を支払おうとしていました。しかし、バスでは千円札しか使えませんでした。中国人なのでクレジットカードは持っていないでしょうが、日本のバスは世界基準のクレジットカードでの支払いもできません。交通系ICカードが発達していますが、来日してすぐ、日本のガラパゴス交通系ICカードなんか入手していないでしょう。
結果として、金はあるのに支払えないというアホみたいな不思議な状況に陥っていました。
海外だと、電車やバスの切符を買うのにクレジットカードは当たり前。現金を廃止した国もあるくらいです。でも、日本の公共交通機関は、切符を買うのになぜかクレジットカードが使えず、現金しか使えないところがほとんどです。
羽田に着いた後の京急線の自動券売機が良い例ですが、この券売機、京急カードなら使えるので、システムは十分対応可能なんです。それでも頑なに京急カード以外のクレカは使えません。
で、現金の出番なわけですが、日本に紙幣はたった四種類しかないのに、高額紙幣が使えないという、何とも情けない状況になっています。
そもそも、一万円札が使えないのは、訪日客に限らず、日本人だって不便極まりない話で、バスに乗る前に小銭を作るため、キオスクなどで要りもしないジュース等を買った経験のある人も多いのではないでしょうか。
そして、今回の中国人が一万円札しか持っていなかったのは、両替所での両替が一万円札しかできないからでしょう。
世界有数の金融業界がある日本ですら、外貨両替は高額紙幣しかできないことが多いです。例えば、米国に行くときに、現地で偽札と疑われやすくて嫌われる100ドル札(10000円と似た価値の紙幣)ばかりで両替され、チップを作るために、到着してすぐ安いものを買って小銭に崩さざるを得ないなんてことはよくあります。バーガー一個食うのに万札(100ドル札)で払うなんてアホみたいでしょう。でも、実際にはそうせざるを得ない人は多いと思います。
同じように来日客の多くが高額紙幣しか手元にないわけです。空港に到着してすぐバスに乗る時に、千円札とか小銭なんて持ってないです。
でもそんなのカンケイネーと、日本の公共交通機関は、システムは対応可能なのに、利用できるようにしていません。
意味分からん何とかペイとかを拡大するくらいなら、クレジットカードをひとつ整備すれば、訪日客の多くが決済で困ることも少なくなります(中国人はそうはいかないですが、、、)。
日本の場合はタクシーですらクレカが使えないのもたくさんあるのだから、訪日外国人にとっては、交通機関の利用が不安そのもの。
デヴィッド・ボウイやミック・ジャガーじゃないですが、カードが使えないなら「じゃっ、いいですぅー」と、言いたいところですが、公共交通機関に、代替手段はあまりないので、使わざるを得ません。支払決済のシステム導入が求められるところです(公的ポイントが付くようになりますしね、、、)。
普段日本にいると、なかなか気付けないところも多いですが、訪日外国人の視点に立てば、空港からバスに乗るだけでも、いろいろ問題があることが分かります。
そして、それを解決すると、日本人のユーザーにもメリットがあることも分かります。
少し旅行後のこのページがいつもより長くなってしまいました。今回の旅は、日本国山を探すなど日本国を感じながらの旅でしたが、そんな中で迷った外人がいたことで、本当にうすーくですが、ここが変だよ日本人的なことも垣間見れ、何だかとても日本国を意識した、非常に興味深いものになりました。
空港ではこれからも多くの訪日外国人を受け入れるはず。少しでも訪れた人が容易に旅ができるようになることを願いつつ、今回の旅を〆たいと思います。
2019年09月02日
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