本旅行記は2020年1月のものを、富士山の日記念で2020年2月に公開したものです。
■2020.01 静岡の旅行後
今回は、中国発で始まった新型コロナウイルス肺炎の影響が拡大し、中国路線が縮小を始める中、静岡空港を訪問しました。静岡空港は、開港以来、中国路線が増減を繰り返し、利用者推移に大きく影響しています。
そこで、今回は、日本を発着する中国路線について軽〜く考えてみます。
■静岡は中国路線がメイン
新型コロナウイルス肺炎は、中国・武漢で最初の発症者が出て、中国全土に一気に拡大。中国が団体海外旅行禁止や移動制限をしたことから、静岡空港を訪れた1月30日には、日本発着の中国路線に影響が出始めていました。
旅行中は全く気がつきませんでしたが、この日、静岡県が、静岡空港発着中国路線8路線のうち4路線の欠航と1路線の減便を発表。翌日から全便欠航路線が出ていました(報道によれば、静岡県が発表した5路線中の2路線を含む4路線の欠航を中国東方航空が別に発表していたようなのですが、公式サイトへの掲載は数日後でした)。
※その後、静岡発着の中国路線は全8路線全便の長期欠航が決定しています。
図らずも、長期欠航前の中国路線を目の前で見てきたことになったわけです。
静岡で国際線と言ったら、まずは中国路線が挙がります。開港以来、様々な路線が就航しては消えるのを繰り返していて、その浮き沈みは大きな話題になっています。
開港以来の中国路線の変遷を書き出すと下のような感じになります。
※平成21年06月04日:CES上海 就航
※平成24年06月18日:CES*i2武漢 就航
※平成26年05月28日:GCR*i1天津 就航
※平成26年12月25日:DER*i1杭州 就航
※平成27年01月28日:GCR*i1天津 定期便化
※平成27年02月17日:CES*i1寧波 就航
※平成27年03月31日:CES*i1寧波 定期便化
※平成27年05月15日:CSN武漢・CSN南寧 就航
※平成27年05月16日:GCR西安 就航
※平成27年05月27日:DER*i1石家荘 就航
※平成27年05月28日:DER*i1塩城 就航
※平成27年06月28日:CSN鄭州 就航
※平成27年07月01日:CES温州 就航
※平成27年07月02日:CSN長沙 就航、DER*i1杭州 定期便化
※平成27年07月04日:CES南京 就航
※平成27年08月25日:CSN鄭州 運休(8/23最終運航)
※平成27年09月02日:DER*i1石家荘 定期便化(9/2は欠航)
※平成27年09月03日:DER*i1塩城 定期便化
※平成27年09月23日:CES合肥 就航
※平成27年10月**日:CES合肥 運休
※平成27年10月26日:CSN長沙 運休(10/22最終運航)
※平成27年10月27日:CSN武漢 運休(10/24最終運航)
※平成27年10月28日:DER石家荘 運休(10/24最終運航)
※平成27年10月30日:CSN南寧 運休(10/23最終運航)
※平成27年12月10日:DER*i3海口 就航
※平成27年12月26日:GCR西安 運休
※平成28年01月10日:CES杭州 就航
※平成28年01月25日:CSN武漢・CSN*i5南寧 就航
※平成28年03月27日:DER塩城・DER*i3海口 運休(3/24最終運航)
※平成28年03月28日:CSN武漢・CSN*i5南寧 運休(3/25最終運航)
※平成28年03月30日:DER済南 就航
※平成28年05月16日:DER瀋陽 就航
※平成28年05月18日:GCR天津 運休(5/14最終運航)
※平成28年07月01日:GCR大連 就航
※平成28年08月19日:GCR大連 運休(8/15最終運航)
※平成28年09月04日:CES杭州 運休(8/31最終運航)
※平成28年09月07日:DER済南 運休(9/4最終運航)
※平成28年09月16日:DER瀋陽 運休(9/12最終運航)
※平成28年10月30日:CES杭州 就航
※平成28年10月31日:CES南京 運休(10/28最終運航)
※平成28年11月02日:CES温州 運休(10/26最終運航)
※平成29年01月13日:CES南京 就航
※平成29年03月26日:CES南京 運休(3/24最終運航)
※平成29年03月29日:DER瀋陽 就航
※平成29年05月17日:DER瀋陽 運休(5/13最終運航)
※平成29年08月31日:CES*i2武漢 上海浦東-武漢間国内線扱いに変更
※平成30年12月22日:CUA煙台 就航
※令和元年07月01日:CSC西安 就航
※令和元年10月29日:CES南昌 就航
※令和元年11月10日:CES連雲港 就航
※令和元年12月29日:CSH温州 就航
※令和02年01月13日:CUA*i6北京大興 就航
*i1:定期チャーター便(インバウンドチャーター)
*i2:上海経由便
*i3:塩城経由便
*i4:南寧経由便
*i5:武漢経由便
*i6:煙台経由便
こうやって見てみると、訳が分からないくらい様々な会社や路線が就航と運休を繰り返しています。
静岡の場合、最初の一年は着陸料補助があることや、利用者がツアー客中心であるため、中国人ツアー客のインバウンドチャーター便的な使い方をされています。このため、中国の様々な都市から代わる代わる就航し、一見さんを運んできている印象があります。
なぜツアー客が多いかは、静岡空港が富士山という巨大ブランドを引っ提げ、東京と大阪を結ぶゴールデンルート上のちょうど中間点付近という好立地にあることに因ります。
何が好立地なのかと言えば、東京からも大阪からも2、300キロ程度だということ。空港から観光バスに乗せて両方に行きやすい。かつ、最初の日や最終日は富士山観光、といったルートを設定しやすいんですね。個人的には、観光バスで2、300キロを移動するのは苦痛ですが、広大な場所に住む中国人にとって、その程度の移動は別に普通のことでしょう。日本人も欧州ツアーなどでアホみたいにバスで大移動するものがありますが、それと同じです。
静岡空港は、空港からそのまま観光バスに乗り込むツアー客にはもってこいの空港になっているわけです。
ところが、観光バスツアー客には使いやすくても、空港からのアクセスが貧弱なため、逆に個人客には不向きな空港でもあります。
欧米からの旅行者は個人旅行が多く、団体バスツアーが多いのは中国からの旅行者です。
そして、ドル箱の東京線や大阪線を開設しづらい静岡空港にとって、国内線の次に狙うのは、どうやっても近距離国際線になります(地方空港が東京国際(羽田)、大阪国際を見るように、静岡は北京、上海、ソウル、台北を見ています)。
つまり、静岡空港が観光バスツアーの中国人を取り込むことは理にかなっていると言えることで、個人向けよりツアー向けの中国路線を重視するのは当然と言えば当然の流れです。
そうなると、路線が定着するかは、中国人ツアー需要にかかっているわけで、今回のような団体ツアー禁止令が出てしまうとひとたまりもなくなってしまいます。
静岡では平成27年〜28年に一度中国便が大幅に増えましたが、空港施設は狭いし、関西国際や成田国際、羽田が相次いで枠拡大などを行ったことで客を奪われ、一度後退しています。なんとも間の悪い空港です。
そこで昨年4月にターミナルを増築。国の観光客誘致策(中国人のビザ緩和等)もあり、再び中国線が増え始め、いよいよ定着するのか注目されていたところでした。
そんな時に新型コロナウイルス肺炎が中国発で発生。毎度毎度なんとも間の悪い空港になってしまっています。
※空港のアクセスが良くなれば個人客が利用しやすくなります。一見バカの遠吠えに聞こえる新幹線駅設置も、団体ツアー頼みの現状を打破する方法として、空港側から見た需要掘り起こしという点では、ごく当たり前の発想だということに気付けます。欧州だと航空会社が鉄道会社と組んで、鉄道切符も一体で販売なんて事例もありますから、鉄道会社は何の努力もせずに客を引き込めるので、かなりメリットだと思うのですが、、、。
新幹線は日本人にとってはただの移動手段なんでしょうが、訪日客にとっては、日本の観光スポットの一つです。それだけ珍しい乗り物に、飛行機下りたらすぐ乗れるというのは、PRにもってこいでしょう。
これからアジアには高速鉄道が広まっていきます。採算面やのぞみ大増殖中のダイヤ面でJR東海は乗り気でないですが、駅設置に何年もかかっては、物珍しさもなくなってしまいます。造るなら早くした方が良いんですけどね、、、。
■日本全国で中国路線が増えていた
静岡は中国路線が就航する状況を象徴的に示していた空港でした。
実は、2017年の中国人観光客ビザ緩和等を契機として、二度目・三度目の訪日客が出てくる昨年位から、中国からの個人観光客流入が目立ってきていました。
欧米からなら東京や大阪を経由しても良いでしょう。しかし、中国からだと、特に西日本へは東京や大阪経由だとUターンしなくてはならなくなるので相対的に時間がかかり、大きなデメリットになります。一方で地方への就航なら路線競合することなく客を独占できます。幹線が埋まりつつある中で、中国の航空会社は、どんどん地方への直行便を増やしていきました。
各地方の玄関口である札幌、名古屋、福岡、那覇などでは中国便が激増。聞いたことのないような都市(でも日本の地方の県庁所在地なんかより断然人口の多いような都市)から、聞いたこともないような航空会社が次々に就航しました。そして、そこも飽和に近づくと、多くの地方空港にも中国路線(北京や上海といった大都市への就航が多いです)が就航するようになりました。
特に、今冬ダイヤからは、中国側からも次々に就航許可が下り、中国路線は急激に増加していました。
いまや世界二位の経済大国に登り詰め、元から金儲けは上手な中華の人々。金があれば海外旅行に行ける人も増えてきます。一番身近で安全な海外は日本ですから、ビザ緩和等が行われれば、中国路線が増えるのは当たり前と言えば当たり前でした。
元々ビジネスの流動は大きい中、旅行者が増加したことで、中国路線が劇的に増えることになりました。
だいぶ前から国内では中国人観光客が増えてはいましたが、まだまだ序の口だったというわけ。航空便が増え、まさにこれからが本番といったタイミングで、今回の新型コロナウイルス騒動が起こってしまったことになります。
■羽田でも一番優遇されている中国路線
日本には、「国際線の主役はやはり欧米路線。中国路線なんて、米国線とかに比べれば二の次扱いだ」という印象の人は非常に多いと思います。
しかし、実は、中国路線は、羽田の発着枠すらもかなり優遇されている、日本からの国際線の主役です。
羽田の発着枠は、米国が足りない足りないと大騒ぎしていましたが、そんな米国線は深夜早朝時間帯も枠数が制限されているのに、中国路線は深夜早朝時間帯はほぼ無制限なんです。米国線の場合、かつて海外旅行の登竜門的に行く人も多かったグアムなどは深夜便の方が扱いやすく、米国線は深夜早朝時間帯も多数の枠があってもおかしくありません。それでも、枠は制限されているのに、です。
成田があるのに強化された羽田の醍醐味は本来は深夜早朝発着便のはず。しかし、昼間便ばかり注目され、深夜早朝時間帯は、中長距離路線には嫌われています。そんな中で、多くの中国便が深夜早朝時間帯を活用して多数運航され、昼間の就航は認められない珍しい航空会社がシレ〜ッと入り込んでいます。
国内線のように、地方にも次々に就航し、拠点空港は深夜早朝時間帯までも活用する充実ぶり。実は、日本の空港では、中国路線がかなり大事な存在になっています。
※羽田の深夜早朝時間帯は、最近少しずつ発着が増え、JALロンドン線など欧州線もありますが、まだまだ少数派です。
■日本の国際線にとって一番重視すべき流動が止まる
よく考えてみれば、中国は、日本から見て、一番近くにある経済大国になりました。中国路線を重視するのは当然の流れです。
昭和生まれからすると、世界は、民主主義(米英)対共産主義(ソ中)だという印象が強く、共産陣営への嫌悪感みたいなものが普通にあります。一党独裁の影響もあり、日本では、中国に対する印象は悪い人が多いですが、航空路線で見てみると、いまや世の中は米対ソみたいなそんな単純なものではなく、様々な国間の流動があることに気付けます。そして、日本と中国の間は結構深い繋がりがあることも分かります。
新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が発覚してから、日本が中国からの流入制限に後ろ向きなのは、日本人の一般ピープルが考えているよりも、ずっと日中間の繋がりが深いからに他なりません。
いち国民としては、この後ろ向き対応が最も不安を駆り立てられる点ですが、、、。しかし、空港ファンとして、普段の中国路線について改めて考えてみると、なかなか難しいことなんだろうというのも、合わせて感じられてしまい、複雑な感じがします。
※あまり、政治的な話はしたくないですが、こうやってみると政治の責任って非常に重たいんですね。日本から見れば、中国人は、大昔から商売上手で、芸術性豊かな人たちなはず。でも、なかなかそういう印象がないのは、政治的な理由で印象が悪いからで、正直、損でしかないような気がするんですけど、、、。
せっかく日本の象徴である富士山を、富士山空港まで見に行ったのに、飛行機は中国機ばかりで、なんとも情けない感じでした。でも、この写真こそが、日本の空港・国際線の置かれていた状況を象徴的に現した写真だったのかもしれません。
新型コロナウイルス拡大に起因する中国の流動停止で、中国路線の利用者は激減していますから、欠航は待った無しでしょう。
まずは、利用者定着がまだこれからだった最近開設された路線、次に地方路線(日本側地方空港発着の路線と中国側地方空港発着の路線)と削られ、最後に大都市間(例えば成田-上海等)も削減が目立ってくるようであれば、いよいよ中国路線も完全アウトな水域だということになるでしょう。
そうならないようにしてほしいものですが、ウイルス拡大の状況を見ると、大都市間も一時的な欠航は避けられない状況です。
※昨年から韓国路線で似たような状況が起こっています。こちらは韓国人のボイコットという不思議な人為的原因で大幅減便となりました。このときも、最近開設された路線、次に地方路線(日本側地方空港発着の路線と韓国側地方空港発着の路線)が削られています。しかし、大都市発着は残りましたから、完全アウトな水域までは行かなかった印象です。
新型コロナウイルスに関しては、かなり死者数も増えてきており、終息するまではまだまだ時間はかかりそうですが、影響が最小限で封じ込められることを願ってやみません。
ビザ緩和で需要が一気に拡大する一方、感染症拡大を起因として一気に欠航が相次ぐー。日本-中国路線に起こった変化は、航空業界のメリットとデメリット、特にリスクをまざまざと見せつけました。そして人々が行き交うための交通(日本は島国なので海外との間は航空路線)がいかに大切かということもよく分かりました。そして、日中間には、意外と深い繋がりがあることに気が付けました。
感染症が早期に終息し、平穏な交流が早く戻ってきてほしいものです。
本当に薄っぺらい内容ではありますが、静岡で中国路線の推移を見たら、なんとなくではありますが、中国路線がある必然性や航空の大切さを見直すことが出来、今後の地方空港の発展への大いなる参考になりそうな気がしました。
そんな、テキトーな感想を持った所で今回の旅を〆たいと思います。