◇中国からの週間陽性者数408人は本当に多いのか、規制強化は妥当なのか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴う水際対策で、中国に対する対応が次々に強化されています。この中で極めて異例なことに6日、即日で週間検体数が発表され、検体数4,895人のうちで陽性者数408人であることが判明しました。
これは多いのか、中国からの入国者にだけ始まった規制強化が妥当なのか、考えてみます。
・これまで週間400人を超えたのは米国のみ
6日に発表されたのは週間検体数と週間陽性者数です。中国からの入国者に限定して発表されました。
12月30日着〜1月5日着までの7日間で
・検体数4,895人、陽性者数408人
と発表されたため、
・罹患率は8.34%
と計算できます。
下に、人数が多く、罹患率が高かった、2022年1月前後で、特に人数が多めもしくは罹患率の悪かった国の状況をまとめました。
これまでの空港検疫で1か国からの陽性者が週間400人を超えたことがあるのは、2022年1月2日〜2022年1月8日の米国のみです。(検体6,188件中506人陽性)
超異常状態であることは一目瞭然で、今すぐにでも陰性者も含めて強制隔離すべき水準と言えます。
・これまでの空港検疫対応と比べると?
週間408人は果たして高い数字なのでしょうか?
前述の通り、超異常な大人数に見えますが、これまでの空港検疫対応と比べてみると、実はこの数値、とても微妙な数値です。
唯一400人超を記録した当時の米国は、強制隔離が3日間だっただけ(一部地域は6日間)。
ほとんど陽性者数も出ていない、陽性率も高くないアフリカ諸国が10日間強制隔離だったのに比べると、柔々対応でした。
現在の空港検疫では、ほとんどの国が検査対象にもならない状況(=コロナをそれほど危険ではないと認定している状況)ですから、過去事例の他国比較からすると、強制隔離しなくても良いと考えてもおかしくはないでしょうか。
こうやって見ていくと、空港検疫が如何に変な基準で運用されているかが分かります。
今回、この400人という数字について、各メディアで大々的に報じられ、「今すぐ入国停止を!」といった意見も結構多い印象です。
でも、昨年1月の時など、米国の人数をヒステリックに取り上げる人や「今すぐ入国停止を!」といった意見も今より少なかった印象です。
こういう点で、今回の規制は、感情論だけに走った人種差別的に見えてしまっています。
・日本国内へは影響大
週間408人は果たして高い数字なのでしょうか?
続いて日本国内への影響を考えてみましょう。
2022年1月に米国からの入国者の陽性が激増した際、「入国者数が多いんだから陽性者数が多くなるのは当たり前。より危険なのは罹患率の高い国だ。(だから率が高くなければ、そんなに気にしなくて良い)」という意見が結構ありました。
これ、渡航者集団が危険か危険でないかを見る点では正しいのですが、日本国内への影響と言う点においては、実は誤回答になります。
入国者は日々母数が変化し、日々新たな検体が送りこまれてきます。その変化は当然母数が変わるので率は大きく変化します。ところが、日本に入り込んでしまうと、母数はほぼ一定の一億二千万人になってしまいますから、すり抜けてしまうと、その人数分、そのまま日本国内のリスクが上がってしまいます。
過去に何度か記事にしていますが、空港検疫では、空港検疫で陽性になる人の10-20%ほどのすり抜けがあると推定されています。(仮に15%と設定すると、今回の中国からの場合、408×0.15=60人ほどがすり抜けていること)
訪日客3000万人が入国して400人陽性の場合、罹患率は0.0013%です。この場合、すり抜ける人は60人と推定されます。
一方、今回の中国のように入国者が5000人しかいないと400人陽性の場合、罹患率は8%になります。でも、この場合でも結局すり抜ける人は60人です。
罹患率で比較すると、後者が600倍危険に見えます。しかし、日本国内に入り込むと、あらっフシギ、日本国内の人のリスクは同じ60人分になるわけです。
もちろん、罹患率が高ければ、機内で感染するリスクも増大し、何度も書いているとおり3%超えれば機内は全員濃厚接触状態になってしまいます。
でも、よくよく考えてみると、そこで上がるリスクは、日本国内の人ではなく、渡航者だけです。自分から密の場所に行って自分のリスクが上がってるだけです。
日本国内の人数発表は正直あまり意味がなく、それこそ、陽性率を見て、行動自粛の基準にしようというのは分かります。
一方で空港検疫では、率よりも人数を見ることが重要です。極論すると、率だけ見て渡航者の安心を取るのか、人数を見て日本の安心を取るのか、という話です。
別に渡航者の航空機内でのリスクが上がることなど、日本にいる身からすると、正直、どうでも良いです(だってそのリスクを冒すのも自分自身でコントロールできるのですから)。
しかし、空港検疫では、日本国内のリスクを上がらないようにするのが目的。
人数が多いというのは、その分、日本国内の人にとってリスク増大に繋がるわけで、とにかく、陽性すり抜け人数を減らさねば、意味がありません。
つまり、中国から週間408人も陽性者が出たというのは、超異常であり、とても重く受け止めなければならないわけです。
超異常状態であることは一目瞭然で、今すぐにでも陰性者も含めて強制隔離すべき水準と言えます。
中国は8日から往来の規制が大幅に緩和されました。第三国との往来も一気に増えるでしょう。香港との行き来も容易になるなど、中国以外の直行便から日本に入国する人も大幅に増えそうです。
中国から、あるいは中国直行便からの入国だけを規制しても抑えきれません。
少なくとも、香港、澳門、韓国等の東アジア路線、タイ、シンガポール、ベトナムといった東南アジア路線からの入国も規制しないとほぼ意味なしになる可能性が高いです。
可能であれば新しい変異株が猛威を振るっている米国なんかも入国規制が欲しいところですが、全然規制強化の動きはありません。
超異常状態であることは一目瞭然で、今すぐにでも陰性者も含めて強制隔離すべき水準と言えます。
しかし、なぜか極めて異例な対応で素早く数字公表して危険だと煽る割に、水際対策では中身は甘過ぎるといった印象でしょうか。
今回の規制に対する強烈な違和感は、慌てふためいている割に中身が甘過ぎることや、国内対応との違い、これまでの水際対策との違いなどから来てしまうのでしょう。もう少し一貫した対策が出来ると、この違和感も解消できるのかもしれません。
皆さんは週間陽性者数408人が多いのか、規制を強化すべきか、強化内容が妥当かをどう捉えますでしょうか。
◆空港検疫 過去に週間集計で陽性者が多かった事例
◆米 国
2021/12/26-2022/01/01 6.25%(検体5,663件中354人陽性)
2022/01/02-2022/01/08 8.18%(検体6,188件中506人陽性)
2022/01/09-2022/01/15 6.48%(検体5,247件中340人陽性)
2022/01/16-2022/01/22 3.81%(検体3,776件中144人陽性)
2022/01/23-2022/01/29 2.18%(検体3,167件中69人陽性)
2022/01/30-2022/02/05 2.00%(検体3,146件中63人陽性)
2022/02/06-2022/02/12 1.28%(検体3,045件中39人陽性)
2022/05/01-2022/05/07 1.36%(検体12,169件中166人陽性)
2022/05/08-2022/05/14 1.68%(検体14,486件中244人陽性)
2022/05/15-2022/05/21 1.77%(検体14,217件中252人陽性)
2022/05/22-2022/05/28 2.00%(検体14,925件中299人陽性)
2022/05/29-2022/05/31 2.46%(検体7,316件中180人陽性=7日換算で420人陽性)
※2022/6/1以降は緩和で検査激減
◆パキスタン
2021/12/26-2022/01/01 4.89%(検体184件中9人陽性)
2022/01/02-2022/01/08 10.58%(検体189件中20人陽性)
2022/01/09-2022/01/15 15.06%(検体239件中36人陽性)
2022/01/16-2022/01/22 23.73%(検体434件中103人陽性)
2022/01/23-2022/01/29 30.92%(検体262件中81人陽性)
2022/01/30-2022/02/05 22.80%(検体386件中88人陽性)
2022/02/06-2022/02/12 9.40%(検体351件中33人陽性)
◆フィリピン
2021/12/26-2022/01/01 1.78%(検体732件中13人陽性)
2022/01/02-2022/01/08 10.14%(検体1,075件中109人陽性)
2022/01/09-2022/01/15 12.17%(検体863件中105人陽性)
2022/01/16-2022/01/22 7.73%(検体932件中72人陽性)
2022/01/23-2022/01/29 4.44%(検体1,149件中51人陽性)
2022/01/30-2022/02/05 1.65%(検体1,396件中23人陽性)
2022/02/06-2022/02/12 1.06%(検体1,507件中16人陽性)
◆インド
2021/12/26-2022/01/01 4.06%(検体641件中26人陽性)
2022/01/02-2022/01/08 9.47%(検体866件中82人陽性)
2022/01/09-2022/01/15 16.39%(検体1,092件中179人陽性)
2022/01/16-2022/01/22 25.88%(検体796件中206人陽性)
2022/01/23-2022/01/29 15.15%(検体746件中113人陽性)
2022/01/30-2022/02/05 7.06%(検体751件中53人陽性)
2022/02/06-2022/02/12 4.40%(検体705件中31人陽性)
◆ネパール
2021/12/26-2022/01/01 1%未満 2人陽性
2022/01/02-2022/01/08 1%未満 4人陽性
2022/01/09-2022/01/15 11.60%(検体474件中55人陽性)
2022/01/16-2022/01/22 37.69%(検体390件中147人陽性)
2022/01/23-2022/01/29 30.96%(検体407件中126人陽性)
2022/01/30-2022/02/05 14.96%(検体381件中57人陽性)
2022/02/06-2022/02/12 7.97%(検体414件中33人陽性)
◆ベトナム
2022/02/27-2022/03/05 6.17%(検体1,571件中97人陽性)
2022/03/06-2022/03/12 9.03%(検体1,672件中151人陽性)
2022/03/13-2022/03/19 7.47%(検体2,623件中196人陽性)
2022/03/20-2022/03/26 6.68%(検体3,908件中261人陽性)
2022/03/27-2022/04/02 6.10%(検体5,897件中360人陽性)
2022/04/03-2022/04/09 4.61%(検体6,655件中307人陽性)
2022/04/10-2022/04/16 2.49%(検体6,938件中173人陽性)
2022/04/17-2022/04/23 1.73%(検体8,894件中154人陽性)
2022/04/24-2022/04/30 1.31%(検体10,330件中135人陽性)
◆韓国
2022/02/27-2022/03/05 3.03%(検体1,254件中38人陽性)
2022/03/06-2022/03/12 3.04%(検体1,580件中48人陽性)
2022/03/13-2022/03/19 3.45%(検体2,293件中79人陽性)
2022/03/20-2022/03/26 3.04%(検体3,253件中99人陽性)
2022/03/27-2022/04/02 1.82%(検体3,676件中67人陽性)
2022/04/03-2022/04/09 2.14%(検体3,128件中67人陽性)
2022/04/10-2022/04/16 1.18%(検体2,885件中34人陽性)
2022/04/17-2022/04/23 1.37%(検体2,923件中40人陽性)
2022/04/24-2022/04/30 1%未満 19人陽性
2023年01月08日
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