2025年01月10日

●各空港のアクセス実力比較1

【成人休み特別企画】 今回計画されている熊本空港アクセス鉄道を整備してもアクセス実力は他空港以下?各空港のアクセス実力を比較してみた(その1)

成人休み特別企画〜
昨年8月と9月に、コラムとして、熊本空港のアクセスが不便な件について二回取り上げました。
【盆休み特別企画】 熊本空港はアクセスが不便なの?(2024年8月14日配信)
【秋休み特別企画】 今回計画されている熊本空港アクセス鉄道では目的満たせず意味なしか?(2024年9月20日配信)

コラム第三弾の今回は、熊本空港アクセス鉄道整備の続きを取り上げてみます。



コラム第三弾もまたまた熊本空港アクセス鉄道!またまた長いです、、、。
超絶文章長いですので、成人のお休みを使ってゆっくりお読みください〜〜



空港アクセスの本当の実力を見てみよう

前回までの二回のコラムで取り上げた、熊本空港アクセス鉄道計画の整備検討資料の中で、
「現在の熊本空港アクセスが壊滅的であること」
→「熊本空港アクセス鉄道整備後は他空港と同等レベルまで改善すること」
を示すため、距離と所要時間を示すグラフが示されています

しかし、これがかなり不思議なものになっています。今回はそこを掘り下げ、熊本をはじめ、各空港の本当のアクセス実力を見てみます。

下記の熊本県公式サイトの熊本空港アクセス鉄道に関するページにある「空港アクセス鉄道パンフレット (PDFファイル:4.07MB)」で1ページ目の左上に載っているグラフです。見たことない方は一度見てみてください。
・空港アクセス鉄道整備に向けた取組み状況(熊本県公式サイト)
https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/215/127122.html



示されているのは主要ターミナル駅までの距離と時間

熊本空港アクセス鉄道整備の資料で示されているのは、「各空港から主要ターミナル駅までの距離と時間」と題されたグラフです。

熊本空港だけでなく、東京国際(羽田)をはじめ、新千歳や鹿児島など国内の主要空港のアクセス距離と時間が示され、比較されています。
パッと見、「現在の熊本空港アクセスは壊滅的」であり、「熊本空港アクセス鉄道整備後は他空港と同等レベルまで改善する」ように見えるグラフになっています

このグラフは、熊本空港アクセス鉄道整備の検討資料など、様々なところで使われています。
そもそも熊本空港アクセス鉄道を整備する必要性を訴えるため、話を始める前提として用いられており、公式パンフレットにも印刷されています。
アクセス時間を比較したグラフがなかなかないためか、ネットサーフィンしてみると、他空港で国内空港のアクセス比較として引用されている例もあるようです。

ところが、このグラフをこのまま見ると、各空港のアクセス実力を誤認する恐れがあります
そこを少し掘り下げてみます。

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■グラフで分かるのは本当に距離と時間?

このグラフで分かることは、以下の点です。
 (1)空港から主要ターミナル駅までの距離(近いか遠いか)
 (2)空港から主要ターミナル駅までの所要時間(時間がかかるかかからないか)
 (3)アクセスの速さ(1、2から算出=グラフ上は傾き)
 (4)同じような距離の他空港と比べて所要時間が短いか長いか
グラフの横軸が(2)、縦軸が(1)であり、傾きは(3)
になります。

熊本空港に関して、それぞれの項目を一見して感じるのは、
 (1)遠い
 (2)時間がかかる
 (3)速さも遅い((1)遠さ以上に(2)時間がかかる=グラフでは右側に寄り過ぎ)
 (4)同じような距離の空港と比較すると時間がかかりすぎ→今回の新線整備で同じような距離の空港と似たような時間になる

といった所でしょうか。

だからこそ、「今回計画でのアクセス鉄道の整備が必要!」という主張につながるのですが、この四点が、実際とは少しズレているのです。

簡単に書くと、
 (1)グラフで示されているほど遠くない(グラフより相当近い)
 (2)グラフで示されているほど時間がかからない(グラフより少し時間が短い)
 (3)グラフで示されているよりさらに遅すぎる
 (4)同じような距離の空港と比較して、グラフで示されているより、さらに時間がかかりすぎ→今回の新線整備をしても、同じような距離の空港と似たような時間にまで改善しない

が実際なんです。

このズレは、このグラフの数値の出し方に起因しています。
そこをよく見ていきます。




空港からの距離がそもそも変

まず違和感を感じるのは、示されている「距離」です。
これは主に(1)に関わる部分になります。

そもそも、
・熊本市の中心部は熊本駅から離れていること
・そのために熊本駅起点での比較は意味が無いこと
・そして、熊本空港アクセス鉄道の第一目的は熊本駅からのアクセス改善ではなく熊本市中心部からのアクセス改善であること
は、前回までのコラムで触れました。
また、空港からのアクセスは、鉄道とかバスとか船とかはたまた(まだどこも実現しようともしていませんが)空飛ぶクルマ(ヘリ定期便)とか様々です。
このため、都市側の起点を、鉄道駅からで比較するのは気に食わないところはあるのですが、それを置いておいても、空港からの距離がおかしなグラフになっています。

まず、熊本自身を見てみましょう。
熊本空港は、現在のものに当たる「空港ライナー」「リムジンバス」と将来の「アクセス鉄道」の3つ表示があります。
「空港ライナー」と「アクセス鉄道」は30キロ弱、「リムジンバス」は20キロと、なぜか距離が違います。


ん?なんだこれ?

熊本空港〜熊本駅間の距離は17キロで、30キロも無いんだけど、、、。
しかも、利用する交通手段によって距離が変わる????

確かに30キロなら「遠っ」ってなりますけど、熊本空港〜熊本駅間の距離は実際には17キロしかないんですが、、、。

ドユコト????

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■直線距離で比較していないおかしさ

よくよく調べてみると、ここで示している距離は、「直線距離」ではなく、「空港から利用する各交通機関が通るルートの距離」を示しているようです。
空港ライナー利用の場合は、大きく肥後大津駅側に迂回するので、かなり距離が延びています。
他の空港を見てみても、直線距離ではありません。

例えば成田国際は62キロ程で40分弱となっています。
詳しくは後述しますが、色々調べてみたら、これ、スカイアクセス線経由でスカイライナーを利用したときの日暮里駅までが濃厚でした。
東京国際(羽田)も、鉄道で14キロ14分位なので、京急線エアポート快特利用時の品川駅までのようですね。京急で羽田から品川に行く場合、直線的ではなく、一度蒲田に大回りする経路です。

いずれにせよ、直線距離ではなく、クネクネしている鉄道や道路で実際に通るルートの距離を比較しているようです。

みんな仲良く実際に通るルートの距離で比較しているんだから良いんじゃない?と言う人も多いと思いますが、こういう距離の取り方だけをすると、その空港の潜在的なアクセス実力は「全く」測れません

※この距離の取り方のおかしさは、東京や他の交通機関で言えば、例えば新宿駅から有楽町駅に行く場合が分かりやすいと思います。
このとき、直通は山手線しかないから山手線外回りで行ってみる物好きな人もいると思います(敢えて物好きと書きます)。山手線外回りでグルリと回れば、だいたい30分強かかります。
でも、多くの人は、中央線で東京駅まで行って山手線に乗り換えていくとか、丸ノ内線で銀座まで行ってほんのちょっと歩くとかで有楽町まで行くのではないでしょうか。なぜなら、中央線経由なら15分(乗り換え時間含まず)、丸ノ内線経由なら16分ですから。

実際に通るルートの距離を比較してみると、新宿〜有楽町間は、山手線経由は17.9キロ、中央線経由は11.1キロ、丸ノ内線経由は6.8キロです。
しかし、そもそも新宿〜有楽町間は、直線距離で6キロしかありません。
そう、よくよく考えてみると、新宿〜有楽町間で移動する距離は17.9キロでも11.1キロでもは6.8キロでもなく、6キロしかないんです。山手線で行こうが、中央線で行こうが、丸ノ内線で行こうが、はたまたバスで行こうが、タクシーで行こうが、自転車で行こうが、マラソンで行こうが、ヘリで行こうが、タケコプターで行こうが、どこでもドアで行こうが、移動距離は6キロでしかありません。


山中を通る鉄道や道路だったら、クネクネしたり、遠回りになってしまうのはよくあります。このため、実際に通るルートの距離を採用したくなる気持ちは分からなくもないのですが、潜在的な近さを比較するなら、実際に通るルートの距離ではなく、直線距離で比較しなければ一切分かりません
なにより、空港からの距離を考えるのだから、チマチマ地べた這いずるルートで比較しないで、ひとっ飛びの直線距離で比較してもらいたいですしね、、、。
ある地点から別の地点までが潜在的に近いか遠いかを比較するときに、実際に通るルートの距離なんて活用しません。しかし、今回の比較グラフは、それぞれの実際に通るルートが通る距離が採用されているんです。

下記で詳しい数字は出しますが、例えば大分空港の場合、大分空港〜大分駅前間は、ノンストップバスは63キロ移動で58分、各停バスは49キロ移動で67分です。
この時に、63キロvs49キロだから、各停バスだと近くて断然良い、とか、63キロだと遠いけど49キロなら近い、とはならないです。

さらに、これは航空業界だからこその考え方かもしれないですが、二地点間の距離を表すときは、普通、その区間の直線距離以外では示しません。
パイロットが給油量や飛行時間を計算するときに実際の飛行ルートの距離から算出したりすることはありますが、交通手段を選択する段で、「横田空域避けるから実際の距離は直線距離よりプラス●●マイル」なんて示さないでしょう。だいたい、貯まるマイル数だって実際に飛ぶルートの距離じゃなくて直線距離だし。

実際に通るルートの距離を用いるとき、意味のある見方をするとしたら、「直線距離だと17キロで、道路経由でも20キロないのに、鉄道経由だと30キロとほぼ二倍もかかるね、バカみたい。」といった、実際に通るルートの距離が遠回りかどうかを認識するためだけ実際に通るルートの距離を用いるなら、直線距離と比較して、そのルートの妥当性(どれだけ遠回りか)を検証するくらいしか使いようがないわけです。少なくとも同時に直線距離を示さないと、全く使えないデータです。

熊本空港〜熊本市中心部間は15キロのところ、道路経由だと17キロで済んでいるのに、鉄道経由だとバカみたいに遠く30キロもかかる。ということをよく認識する必要があります。

※ちなみに、日本がモタモタしている間にハブ空港の地位を確立した、韓国の仁川国際空港は、公式サイトによると、第1ターミナルから第2ターミナルまでの無料連絡バスが走る距離が15キロ15分だそうです。(第2→第1は19キロ18分。鉄道ではないですよ、念のため書いときますけど。両ターミナル間は直線距離では2.5キロですけどね。)
直線距離なら15キロの熊本空港を遠い、バス利用で44分かかる熊本空港を時間かかると思いますか?



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■中心部の基準も曖昧

(1)の距離に関しては、もう一つ不思議な点があります。
それが、「主要ターミナル駅」がどういう基準で選定され、それぞれどこなのかが良く分からない点です。

例えば、先ほど成田国際空港は日暮里駅で捉えているようだと書きました。
しかし、成田国際空港から見た主要ターミナル駅って日暮里駅が適切なのでしょうか?
複数路線が乗り入れているなら成田駅でも良さそうですし、県庁所在地なら千葉駅なのでは?そもそも、東京の空港として考えたら東京駅が最大の候補でしょうし、東京都庁があると捉えれば、新宿駅や都庁前駅(一応ターミナルです)の方が適切そうです。京成線の都心終着駅である上野駅ではダメなのでしょうか。


同じように、羽田空港は品川駅を採用しているようです。

品川は規模的にまだ許容範囲内かもしれませんが、東京の主要ターミナル駅って、東京、上野、池袋、新宿、渋谷くらいで、日暮里は感覚的にはかなり違う、という印象です。日暮里は、高田馬場とか目黒、五反田などと同格程度で、「主要」ターミナルとは全く言えないでしょう。また、東海道線や京浜東北線で考えると、ターミナルは品川駅ではなく東京駅ですから、「主要」かと言われれば、品川もちと違う感じがします。(リニアの出発駅になるからまだまし?)

また、羽田の場合、京急より東京モノレールって言う人の方が多くないですか?しかも、都心側の終点は京急より東京モノレールの方が都心に近いのに、なぜか品川です。熊本の人が「都心へビュン。京急」と言いたくなる気持ちはとてもよく分かりますけど、なぜ品川採用なのか理解に苦しみます。

そして、そもそも、同じ都市なのに、主要ターミナル駅(基準となる中心地)が、空港によって異なる駅を基準にするってあり得ないです。
羽田からのターミナル駅が品川駅なのなら、成田エクスプレスで直行できるのだから成田からのターミナル駅も品川駅にしなきゃダメでしょ。その場合、調布飛行場からも新宿駅じゃなくて品川駅に統一すべきです。そう考えると、日暮里駅や品川駅より、新宿駅とか東京駅の方が適切と思いませんか?

※どの駅を採用しているかは、一部の空港は、過去の空港アクセス検討委員会資料で示されています。
それで示されているのは、
 福 岡=博多駅 5km 5分、
 鹿児島=鹿児島中央駅 42km 46分、
 仙 台=仙台駅 25km 25分、
 宮 崎=宮崎駅 6km 10分、
 長 崎=長崎駅 40km 43分、
 広 島=広島駅 49km 45分、
 高 松=高松駅 16km 40分
 熊 本=桜町バスターミナル 18km 50分、熊本駅 19km 60分、
です。グラフで採用されている数値と異なるものもありますが、一つの参考にはなるかと思います。
詳細は下記熊本県公式サイトの「第1回空港アクセス検討委員会資料」6ページ目にありますのでご確認下さい。
第1回空港アクセス検討委員会の開催について https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/215/69284.html


そもそも、そもそも、と一杯書きましたが、こんな感じで、そもそも距離の取り方がおかしずきるんです。

東京の場合、都市が広範囲に拡がっているので、どこか決めるのは難しいですが、流石に日暮里駅とか品川駅とかを中心地(あるいは当該都市の主要ターミナル駅)とは言えないでしょう。東京の中で一つ選ぶとしたら、もっと相応しい場所はいくつもあります

そして、東京が日暮里駅とかで良いんなら、そもそも熊本空港の場合も新水前寺駅までの比較で良くないですか?ホームは一つだけみたいですが、熊本県庁にも近いし、中心部への路面電車の乗換駅だから、主要ターミナル駅ですよ。
なんで熊本は、わざわざ中心部より遠くにある熊本駅を採用しているのかが謎です。(高速交通機関の新幹線停車駅だからだよ、というなら、空港とか高速インターまででも良くない?)

詳しくは後述しますが、グラフで採用されているもののうち、空港から見て、中心部より遠くの駅が設定されていると思われるのは、19空港中、熊本、新千歳、北九州、佐賀、鹿児島だけ。しかも、北九州はほぼ中心部とイコール、新千歳と鹿児島は実際に通るルートだと中心部より手前側。さらに、佐賀は駅が中心部より遠くにしか無いので、実質的に19空港の中で熊本だけがなぜか恣意的に中心部より遠くにある駅を採用しているのです。
成田国際の場合の日暮里や東京国際の場合の品川など、他の空港は中心部より手前の駅に拘っているのに、熊本は中心部より先にある熊本駅を採用しているのですから、驚きです。
他の空港をより近く見せ、熊本はより遠く見せることで、熊本の距離の酷さを強調しているんです。

いやいや、空港から乗り換えせずに直通できる先の終点またはほぼ終点に近いターミナル駅だよ、という意見もあるでしょう。
でも、空港直結アクセス交通の終点か、終点に近い途中の乗換駅で良いのなら、熊本の空港ライナーの場合、そもそも今は空港ライナーは豊肥本線に直通してないんだから、空港ライナーのターミナル駅は、肥後大津駅じゃないの?それだったら今の空港ライナーは7キロ15分ですよ。なんだ、熊本もチョーアクセス便利じゃん、ってなります。

肥後大津については言い過ぎかもしれませんが、日暮里や品川と比較するのは、そういうことです。
考えれば考えるほど、なんだか変な距離の取り方なんです。




熊本空港アクセス鉄道を考えるならターミナル駅じゃなくて中心部で比較しなければ意味がない

さらに、そもそも、比較するのなら、駅ではなく、中心部の主要施設で比較しないと、鉄道ばかりが有利になります。交通ターミナルは、駅だけでなくバスターミナルやタクシー乗り場もあるでしょう。
さらに、突き詰めれば、そもそも空港自体がその都市の玄関口たるターミナルなんだから、「各空港から各都市の主要ターミナルまで」は0分なはずです。熊本の場合、市中の出発地・目的地(例えば自宅や出張先等)から、熊本駅へ車で行くのと空港まで車で行くのが大して変わらないと言うパターンも多いでしょうし。

そこまで極端に言うと、比較する意味がなくなってしまうので置いときますが、、、。

そもそも、今回検討にしている熊本空港アクセス鉄道は「熊本市中心部からのアクセス改善」が最大の目的です。ということは、「空港〜各都市の主要ターミナル駅」ではなく「空港〜各都市の中心部」からの距離・所要時間で比較しなければ、わざわざ分析する意味がありません
しかも、熊本のように中心部と代表駅が離れているところは、駅基準では、比較する意味が全くありません。熊本空港〜熊本駅間で比較しては、熊本空港アクセス鉄道の最大の目的を達成できるかどうかは「全く」分かりません

羽田、成田の位置を諸外国の主要空港(ロンドンとかパリとかニューヨークとか)と比べる際に、中心部から直線引いた重ね地図がよく出てきますが、今回距離を測るなら、まさにこの図こそ適切。
アクセスを比較するのなら、空港までの距離は、中心部〜空港の直線距離とすべきで、中心部にたまたま主要駅があるなら、それを基準にすれば良いだけです。
前回、前々回のコラムから何度も書いていますが、熊本は、中心部にたまたま熊本駅はありませんから、それを採用するのは著しく不適切です。

いろいろ書いてきましたが、熊本空港〜熊本市中心部間は15キロです。30キロじゃない、15キロです。
したがって、熊本空港の(1)距離は15キロで「大して遠くない」が正しい評価になります。





時間の計上は超恣意的

続いては、時間の取り方についてです。これは(2)に当たる部分です。
実は、この所要時間の計上がかなり恣意的です。

先に挙げた羽田の場合、東京モノレールの最速列車で浜松町に行く場合と京急の最速列車で品川に行く場合、品川に行く方がわずかに早いので、一秒でも早い方を採用しているようです。
他の空港も、とにかく最速列車を使ったときの所要時間が採用され、ことさら速いことが強調されています。後述しますが、仙台や関西国際なんて利用できる列車がほぼ運行していないのに、最速列車での所要時間が採用されています。

ところが、なぜか熊本の現在は、最速での比較ではなく、長くかかるときの時間が示されています
そもそも現在の所要時間は、朝や夕方の渋滞時の時間が採用されていますし、特に空港ライナー経由としてグラフで示されている所要時間の計上が酷いです。最速列車は全く採用されておらず、また、明らかに肥後大津駅で過剰な乗り継ぎ時間が入っています
前回のコラムでも書きましたが、時刻表上の所要時間は、空港〜肥後大津駅間は15分で一定ですが、肥後大津駅〜熊本駅間は列車によって(普通列車で)30分強〜40分弱とバラバラです(念のため強調しておきますが、最速列車の所要時間ではないです)。算出はしづらいですが、単純な足し算をすると、乗継時間やその時の待ち時間を無視すれば、所要時間はトータル40分台後半〜50分台前半のはずです。ここに(他の空港では全く含まれていない)乗継時間やその時の待ち時間を含めても50分台後半〜60分台前半くらいにしかなりません
最速列車なら肥後大津駅〜熊本駅間は30分を切りますから、待ち時間を含めてもせいぜい50分台後半にしかならないわけです(時刻表上は)。
しかし、このグラフでは、上のように算出した場合の最大時間である64分を採用しているのだから開いた口がふさがりません。

他の空港をより速く見せ、熊本はより遅く見せることで、熊本の酷さを強調しているんです。
で、熊本空港アクセス鉄道整備後の所要時間は、計画の中にない、豊肥本線の複線化(高速化)を含めた時間を採用するというセコい見せ方を実施。

実際には、バスだと、市内の渋滞で1時間以上かかることも多いようですけど、比較はあくまで時刻表上の比較ですから、渋滞の話は別物ですし、この数値の出し方はありえないです。だったら、他の空港も朝や夕方の渋滞時の時間で比較しましょうよ。

他の空港が最速便利用時を採用するのなら、熊本も最速便で比較すべきです。
逆に熊本を最遅便利用時を採用するのなら、他の空港も最遅便で比較すべきです。
平均所要時間を採用しているのなら、熊本も他の空港も平均所要時間で比較すべきです。



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■運行間隔や所要時間がバラバラだとブレが大きい

前述の通り、グラフの所要時間は、熊本以外は、最速便の場合を採用しているようなのですが、より実態に近い平等な比較をするためには、できれば平均所要時間を採用すべきです。

そして、
@実際にその便に乗って移動する時間
だけでなく、
Aその便に乗るための待ち時間
B乗り継ぎ時間
も含めるべき
です。
しかし、これらの算出はかなり難しいです。なぜなら、運転間隔や所要時間が一定ではないためです。

例えば、Aについて考えると、熊本の空港ライナーは日中30分間隔なので、平均15分待たされることになります。同じように考えると、成田空港のスカイライナーは20分間隔なので、平均10分待ちを加えないといけません。なんだ、運転間隔の半分の時間を加えれば良いだけじゃん、と思っても、一定間隔でない時間帯があるので、これですら、そう単純に算出できません。熊本空港ライナーもスカイライナーも深夜時間帯は走っていませんから、その時間帯は例えば平均5時間くらい待たされます。厳密に言えば平均待ち時間は上記の数値ではないです。

また、アクセス交通の時間なので、飛行機の到着時刻からスタートさせるのがより正確です。そうなると、スタートの時刻も限定され、待ち時間がブレてきます。

そもそも、電車やバスに乗っている時間も、朝ラッシュ時と昼間時、特急便と各停便といった違いで大きく所要時間が異なる場合があり、それらの平均を出すのは至難の業です。

例えば、熊本市長が35分で行けるとツイートしていた、九州新幹線の熊本駅〜博多駅間を見てみましょう。
10時台〜13時台は、
 10時台︰04分発さくら(博多10:43着)、20分発つばめ(博多着11:09着)、39分発さくら(同11:23着)
 11時台︰16分発みずほ(博多11:53着)、20分発つばめ(博多着12:09着)、42分発さくら(同12:23着)
 12時台︰20分発つばめ(博多13:09着)、42分発さくら(同13:23着)
 13時台︰17分発さくら(博多13:58着)、20分発つばめ(博多着14:09着)、42分発さくら(同14:23着)
となっています。
ここだけ見ただけでも運行間隔がバラバラ。種別もたくさんあり、待ち時間も所要時間もバラバラなので、そう簡単に平均所要時間は割り出せません
一番有利な10時17分〜11時16分で考えれば、熊本駅〜博多駅間は、最速で37分(11時16分熊本駅出発)ですが、待ち時間と所要時間、運行便数を考慮すると平均54分もかかります。(最遅は10時40分熊本駅出発の場合で73分。熊本空港の所要時間と同じように時間のかかる電車を選ぶなら、つばめになり、乗っている時間だけで49分かかります。)

これだけを見ただけでも、最速と平均で17分もの乖離(驚愕の7割増!)があり、最速で比較する馬鹿さ加減が分かるでしょう。
最速と平均で大きな差が出るのは、遅い列車の所要時間も考慮しなければならないためです。
熊本駅〜博多駅間は最速32分で行けると宣伝されています。熊本市長からすれば、それより長い時間で記載しており、かなり余裕もって記載している!と言いたくなるでしょうが、最速便の便数がとても少ないので、結局は平均で54分もかかるのだから、ビックリですね。

そして、平均は、平均を取る出発時刻を1分ずらしただけでも数値が変わるので、算出するのが困難です。

これが7時台(7:00〜7:59出発)だと、
 熊本07:01→博多07:40さくら
 熊本07:07→博多08:01つばめ
 熊本07:19→博多07:51みずほ
 熊本07:28→博多08:18つばめ
 熊本07:42→博多08:21さくら
 熊本07:45→博多08:33つばめ
 熊本08:06→博多09:01つばめ
 熊本08:19→博多08:51みずほ
となり、最速32分平均48分最遅65分になります。

見ての通り、運行便数が増えれば待ち時間が短縮しますから、その分早くはなりますが、全部が最速列車ではないので、最速と平均の乖離は相変わらず酷いですね。

一方、12時台(12:00〜12:59出発)の熊本空港行バスの場合、
熊本駅12:15→熊本空港13:17
熊本駅12:35→熊本空港13:37
熊本駅12:55→熊本空港13:57
熊本駅13:25→熊本空港14:27
なので、熊本駅〜熊本空港間は、最速62分平均72分最遅91分となります。
熊本駅からの熊本空港リムジンバスの場合、1種別しかなく、鉄道のように便による所要時間差がないので、最速と平均の乖離の乖離は小さく、最速と平均の乖離≒平均待ち時間になります。

このような感じで、熊本駅〜博多駅間をちょっと比較するだけでも、朝なら最速32分平均48分最遅65分、昼なら最速37分平均54分最遅73分になります。
グラフで示されている時間はほんの一端のみが見られているということをご認識ください





出てくる速度はグラフの取り方だと本来差はないはず

以上の距離と所要時間から算出できるのが「速度」です。(なんか、算数の授業みたいになってしまい、スミマセン、、、)

グラフは、熊本以外は
・距離=実際に通るルートの距離
・時間=最速便の移動している時間のみ
で示されています。
このため、速度の傾きは実態よりは急角度になっているはず
です。

しかし、この数字ではそれぞれのアクセスが、距離に応じた適切な速度を保てているのかは分かりません
なぜなら、鉄道は60km/時、車は(一般道で信号待ち含めて)30km/時くらいが普通ですから、実際に通るルートの距離が15キロ移動なら鉄道15分・車30分、30キロ移動なら鉄道30分・車60分くらいかかるのはごくごく当たり前だからです。
実際に通るルートの距離で最速便の移動している時間のみだけで計算したところで、本来は大きな差は出てこないはずです。実際に通るルートの距離を使った比較は、比較するだけ無駄なのです。

この数値で比較して、もしも遅いと出てくるのなら、その交通機関は、他の空港では実現できる速度に比べて遅すぎるということになります。つまり、既存交通機関でまだまだ改善する余地があるということです。強いて結論を挙げるなら、「新線を整備しろ」ではなくて「既存鉄道やバスを他の空港のように高速化しろ」となります。

新線を整備すべきかどうかを検討するときに分析すべきは、実際に通るルートの距離で算出した速度ではなくて、
・距離=直線距離(必須)
・時間=平均所要時間(できれば)
から算出される速度
です。
この数値が悪ければ、アクセスとしてその交通機関のままでは劣悪ということになります。だからこそ、新しいアクセスを検討すべきとなります。

先ほど挙げた新宿〜有楽町で考えてみましょう。
グラフの算出方法(実際に通るルートの距離で計算)だと、
・山手線経由(17.9キロ30分=時速36キロ)要は各停
・中央線経由(11.1キロ15分=時速44キロ)要は快速
となります。
この数値を見ると、時速はそれほど遜色ない=実力としては同じ程度という評価が下ると思います。
しかし、山手線経由は距離が長いのだから時間がかかって当たり前です。

平均所要時間は出すのは難しいので、距離だけを変化させてみますが、
本当は、
・山手線経由(6キロ30分=時速12キロ)
・中央線経由(6キロ15分=時速24キロ)
の実力しかないわけです。
そして、この比較だと、実際には両者間で2倍もの差がついていることが分かります。
新宿〜有楽町の移動という特定の二地点間では、前者の比較では違いが見えませんが、後者の比較では明確に山手線は遅すぎるということが分かります。
後者だけでの比較の場合、出てくる差の原因が、走行距離の違いによるものなのか、走行速度の違いによるものなのかは分かりませんが、新線整備が必要かどうかは前者の比較よりも後者の比較のほうが判断しやすいです(最適なのは両方出すことで、山手線は実は時間がかかる→遠回りだったから→なら短絡鉄道造ろう。となる)。
まあ、遠回りかどうかはグラフでなくて地図で見られますから、グラフで示さなくても、、ね、、、。

距離と時間を用いて比較する場合、自分が通るルートの距離を用いて比較しても、新線整備の妥当性はほぼ見えないことが分かります
今回の熊本空港アクセス鉄道のように、「空港〜熊本市中心部間のアクセス改善」と明確に二地点間が示されている中で新線整備の妥当性を検証するのなら、後者(空港〜市中心部間の直線距離を用いた計算で)の比較を採用しなければ、正しい比較ができないんです。

熊本空港アクセス鉄道パンフレットにも載っているグラフで示されている速度での比較は不十分ですから、その比較で整備すべきかどうかを判断するのは避けるべきです。




本当にアクセスが便利な空港はどこなのか?

では、この表を比較の意味のあるものにしてみましょう。
本当にアクセスが便利な空港はどこなのか探ってみます。

この比較では、ここまでダラダラ書いてきた内容を踏まえ、以下の基準で分析してみます。
(1)距離︰空港〜各都市の中心部間の直線距離
(2)時間︰空港〜各都市の中心部間の移動時間のみ(算出が困難なので、最速便利用時とします。また、乗継時間・待ち時間を含まない数字で比較します。)
(3)速さ︰上記(1)(2)から算出




とここまで書いてきましたが、結果の提示も超絶長いので、続きは明日公開します。
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